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#00189 2012.9.1 |
『古事記序文』解説(1)
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「臣(おみ)安万侶(やすまろ)言(まお)さく、それ混元既に凝りて、気象未だ効(あらわ)れず。名も無く為(わざ)も無し。誰かその形を知らむ。然(しか)して乾坤(あめつち)分かるる初め、参神、造化の首(はじめ)を作(な)し、陰陽ここに開けて、二霊群品の祖(おや)と為りき。 所以(このゆえ)に、幽顕に出入りして、日月、目を洗ふに彰(あらわ)れ、海水に浮沈して神祇(かみたち)身を滌(すす)くに呈(あらわ)る。 かれ、太素(たいそ)は杳冥(ようめい)なれども、本教に因(よ)りて、土(くにち)を孕(はら)み、島を産みたまひし時を識(し)り、元始は綿邈(めんばく)なれども、先聖に頼(より)て、神を生み、人を立てたまひし世を察(し)る。」
(現代語訳:清風道人) 「太朝臣安萬侶(おおのあそみやすまろ)が申し上げます。混元(混沌としている宇宙の根元の気)の未分化の状態から既に凝結する兆しがありますが、その時は未だ気象(宇宙の姿)は現れておらず、誰もその形を知る者はおりません。そして参神(天之御中主神、高皇産霊神、神皇産霊神の三神)が造化(天地陰陽の運行によって万物が成り出でること)の首先となり、乾坤(天地)が初めて分かれ、陰陽が開けて、二霊(伊邪那岐神、伊邪那美神の二神)が万霊万物の祖神となりました。 このために、二神は幽界(かくりよ)と顕界(あらわよ)に出入りして、伊邪那岐神が目を洗うと日、月の神(天照大御神、須佐之男命)が現れ、海中に浮沈して禊ぎ祓えを行って八百万神が現れました。 このように、太素(天地開闢(かいびゃく)以前の混沌とした時)のことは明らかではありませんが、本教(天津神による伝承)によって、地球の誕生のことを知識し、また、元始(世の始め)のことは遥か遠い太古のことではありますが、先聖(本教のことを言(こと)伝え、記し伝えた賢人)によって、八百万神がお生まれになられたことや、人界をも生(な)し立て給われた御世のことを察することができるのであります。」 (記事本文は #0026【宇宙のはじまり】>> ~ #0036【神代第一期補遺(2)】>> 及び #0048【「神生み」の時代】>> ~ #0062【三貴子の誕生】>> )
つまり、編纂者である太安万侶(おおのやすまろ)大人(うし)によれば、『古事記』の神代の段(くだり)は、宇宙の初発より始まる幽顕両界にわたる太古の神々の伝承で、地球の誕生、さらに人間界(顕界)の成立に至る物語であることがわかります。(太安万侶大人の子孫とされる多人長(おおのひとなが)によれば、大人は『日本書紀』の編纂にも加わったとされています。) とくに神代の段(くだり)には、今の人類の常識では測り得ないエピソードが数多く記されていますが、それは顕界ではなく幽界での出来事と考えるのが自然でしょう。 #0023【この世界だけがすべてではない】>>
「寔(まこと)に知る、鏡を懸(か)け、珠(たま)を吐きて、百王相続(あいつ)き、剣を喫(の)みし蛇(おろち)を切りて、万神(ばんしん)蕃息(はんそく)せしことを。」
(現代語訳:清風道人) 「実に、天照大御神が天石屋(あめのいわや)にお隠れになられた折には鏡を懸け、天照大御神と須佐之男命の宇気比(うけい)の折には珠(八尺(やさか)の勾玉)を物実(ものざね)として数多くの御子が次々と生(あ)れまし、剣を呑んだヤマタノオロチを切った須佐之男命の御子孫神が多く坐(ま)すことを知ることができるのであります。」 (記事本文は #0069神代第三期のはじまり -月の分体-】>> ~ #0088【須佐之男命の行方】>> )
「安河(やすかわ)に議(はか)りて、天下(あめがした)を平(ことむ)け、小浜に論(あげつら)ひて、国土(くに)を清めき。」
(現代語訳:清風道人) 「皇孫命(すめみまのみこと)が天降り給うことについて、天安河(あめのやすかわ)に八百万神が集い議り、神使となった建御雷神(たけみかづちのかみ)と天鳥船神(あめのとりふねのかみ)によって大国主神との国譲りの交渉が成立し、地球上が祓い清められました。」 (記事本文は #0101【神代第四期のはじまり】>> ~ #0135【地球上の幽顕の組織定まる】>> )
以上が、天地開闢より始まり、宇麻志阿斯訶備比古遅神(うましあしかびひこぢのかみ)と天之常立神(あめのとこたちのかみ)の神徳によって太陽が成立した後、伊邪那岐・伊邪那美二神によって地球が修理固成(つくりかためな)され、その二神が祖神となって八百万神が生(あ)れまし、須佐之男命と天照大御神の誓約(うけい)の神術によって皇室の祖神が誕生し、天津神と大国主神の交渉によって今に至る地球上の幽顕の組織が定まり、そして皇孫命(すめみまのみこと)の地上降臨の準備が整うに至るまでの造化変遷の物語の大略です。 (太安万侶大人の意に従うならば、神代は幽顕相通の時代で、その後に幽顕が分界されて、今の人間界(顕界)が生(な)し立てられたということになります。つまり、「大国主神の国譲り」とは人間界的な王朝交代などではなく、大国主神が顕界の統治を皇孫命に譲り、自らは幽界の主宰神となるという幽顕分政への変遷を表しており、それは『日本書紀』の伝に見える天照大御神の神勅「それ汝が治(し)らす顕露事(あらわごと)は、宜しくこれ吾が皇孫(すめみま)治らすべし。汝は即ち神事(かみごと)を治らすべし」と、それに対する大国主神の返答「吾(あ)が治らせる顕露事(あらわごと)は、皇孫(すめみま)当(まさ)に治ろしめすべし。吾は将(まさ)に退きて幽事(かくりごと)を治ろしめす」というやり取りによってもわかります。 #0132【幽顕分政の神勅下る】>> ) |
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#0088 2011.2.24
須佐之男命の行方
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「かれ、ここを以てその速須佐之男命、宮造るべき地(ところ)を求(ま)ぎたまひて出雲国に到りまし、須賀の地にて詔(の)りたまはく、「吾(あれ)、この地に来まして、我(あ)が御心すがすがし」とのりたまひて、そこに宮作りて坐(ま)しましき。かれ、その地は今に須賀といふとぞ。この大神、初め須賀宮を作りし時に、その地より雲立ち騰(のぼ)りき。かれ、御歌(
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#0062 2010.10.25
三貴子の誕生
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「ここに左の御目を洗ひ給ふ時に成りませる神の名(みな)は、天照大御神(あまてらすおおみかみ)。次に右の御目を洗ひ給ふ時に成りませる神の名は、月読命(つきよみのみこと)。次に御鼻を洗ひ給ふ時に成りませる神の名は、建速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)。」『古事記』
「この時伊邪那岐命、大(いた)く歓喜(よろこ)びて詔(の)り給はく、「吾(
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#0048 2010.8.14
「神生み」の時代
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『古事記』や『日本書紀』などの日本の神典は、今のわたしたちの常識から考えると不可解な内容が多く、大昔の科学が発達していない野蛮な時代の人が創作した小説のように思われますが、日本古学の玄理に照らし合わせて考察していけば、世界にも類を見ない、玄妙なる宇宙の摂理を伝えたものであることが明瞭になってきます。(一神教を信じる国々は、天災や戦乱によって神
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#0023 2010.3.31
この世界だけがすべてではない
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わたしたちが日常生活をおくっているこの世界を、やまとことばで「あらわよ(顕界)」といい、わたしたちの五感で感知できない異次元世界を「かくりよ(幽界)」といいます。そして宮地水位先生の『異境備忘録』に「幽界は八通りに別れたれども、またその八通りより数百の界に別れたり」とあるように、この幽界には、尊い神々の世界をはじめ、神の眷属(けんぞく)の世界
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カテゴリ:玄学の基本 |
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