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#00377 2015.10.2
『異境備忘録』の研究(62) -真人の薄幸-
 
 
 宮地水位先生の霊学(玄学)は、その特異な霊的環境のため極めて高次元であったこともあり、当時の神道界から異端視され、特に土佐の神道界はこれを極端に排撃しました。 #0325【『異境備忘録』の研究(10) -諸真形図-】>>
 しかしながら、江戸時代における玄学の泰斗・平田篤胤先生を再現するようなその博学広才の前には正々堂々と学論を挑む者はおらず、それだけに陰で謗(そし)り、誹謗するという陰湿な者達が徒党を組んで排撃の気勢を上げていたことが伝えられていますが、「学」そのものの真理を誠実に追究することよりも、利害関係や感情的なものによって動かされる輩が多いのは古今東西に照らしてもありがちなことでしょう。 #0254【『幽界物語』の研究(24) -平田篤胤大人のこと-】>>

 当時の土佐の神道界は垂加神道が勢力を占め、これに南学一派(江戸時代初期に土佐に起こった朱子学派)の後援もあって、水位先生の神仙道は常に非常な迫害に曝(さら)されました。
 垂加神道は、その根元は南学より来ており、朱子学の「敬」の思想を骨格として五行説を加味し、祭祀に関する新工夫を試みたもので、いわゆる「理神道」の代表的なものですが、垂加神道が恰(あたか)も神道の正統派のように喧伝(けん)されたのに対し、水位先生の「実神道」は異端邪説のように白眼視され、ただ平田派古学の微旨に心を寄せていた国学の士が宮地家の門を潜る程度で、その門人の大部分は県外の遠隔地から来集した者でした。

 もっとも神仙道に対する迫害は水位先生に発したものではなく、厳父・常磐先生の場合も同様で、手箱山開山と先生の神事修法の霊験に対する嫉妬妬みと誹謗中傷は遂に藩庁を動かし、一時は常磐先生の潮江天満宮祀職を差し止められるに至ったほどでした。 #0317【『異境備忘録』の研究(2) -手箱山開山-】>>
 宮地家家牒に「万延元年庚申六月十三日、出足を以て手箱山を開き、鉾(ほこ)を山上に立て、大山祇神の璽(しんじ)と仮に定む。日ならずして帰る時に、神事の盛に行はれんとするに会し、奸臣(かんしん)これを悪(にく)み、万延二年辛酉三月四日、神事を扱ふ事を差止られ、手箱山に一条並(ならび)に神掛り等詮議(せんぎ)に掛くる。この時官吏(かんり)に答へたる書あり。天理正義を以て答ふと雖(いえど)も、官吏これを非に曲げて、文久三年癸亥八月二十三日、神主を止められ、嗣子(しし)政衛神主となる」とありますが、イエス・キリストがそうであったように、真人(しんじん)が排撃されることは古今東西を問わず見られます。
(神典にも大国主神が八十神等によって激しく排撃された伝が見えますが、その原因については平田先生が詳しく解説されています。 #0104【大国主神の受難】>> #0134【大国主神に神習ふ】>> )

 また、水位先生は潮江天満宮の神主として、その僅かな神社収入や門人の束修、謝儀等が財源でしたが、持ち前の学究心から前後の考えもなく無計算に書籍の購入に費やされる支出が莫大な額に上り、その度に動きがとれない経済難に見舞われました。
 こうした場合は地方或いは京阪神の古本商を招いて、その幾万巻の蔵書中から差し当たり不用なものを売り払ったりされたようですが、この極端な財政難には流石に計数に無頓着な先生もよほど閉口され、特に常磐先生の御帰天当時の窮状には非常に落胆されて、その頃の日誌では、「学ぶ所の道書その幾万巻なるを知らず。茲(ここ)に於(おい)て自ら誇りて之(これ)を云へば、古今道書の玄旨を究め、幽現出入の術、練形の法、百端の理に達すと雖(いえど)も、今遽(にわか)に陽九の厄に会ひ、父は逝き、母は歿し、稚子(ちご)手に縋(すが)り足に纏(まと)ひ、火薪胆石の攻めに周章し、鼠根を噛むの衢(ちまた)狼狽し、自然世の濁流の賤しきに処し、気を服し符図を帯び、以て天僊(てんせん)を慕ひ坐在立亡天地昇降の途に就く能(あた)はず」と嘆かれています。

 天地を昇降し、神仙界に交通される仙真であった先生としては、人間界の濁流に処し、卑賤の輩の嫉視誹謗や極端な身辺の不如意にさらされることは決して御本意ではなかったに違いありません。 #0327【『異境備忘録』の研究(12) -神仙界の御掟-】>> #0334【『異境備忘録』の研究(19) -宇宙間飛行-】>>
 先生の手記からも、人間地臭の穢界を脱出して一刻も早く神集岳へ帰山されたかった心境が推察されますが、「謫仙」として流謫の運命の下にあった先生としては、その不遇不如意もまた止むを得ない次第であり、それだけに門人・多田氏の援助には非常に感激され、中執持ちの労を執られて神仙界への道を示されたのでしょう。 #0318【『異境備忘録』の研究(3) -父子二代の神通-】>> #0376【『異境備忘録』の研究(61) -水位先生の引導文-】>>

「筏(いかだ)を浮かべ蓬莱(ほうらい)に赴むかむと欲して一篙(ひとさお)を進むる毎に、人間(じんかん)に遠ざかり仙境に近づかむとす。童男あり、磯に立ちて我を慕ひ呼び、僊山(せんざん)に踵(きびす)を企て躋(のぼ)らんとすれば、一歩は一歩毎に高くして下塵に離れ、仙洞に近づかむとす。童女あり、麓(ふもと)に佇(たたず)み我を恋ひ招く。思ふに人情は天地の自然なれば、父子恩愛の情また捨つるべきに非ず。」

 この一文の内に先生の慈父としての温容がしみじみと滲み出ていますが、人一倍に子煩悩であった先生は、幼少の御子女達の行末を案じると、尸解の期を早めて道山に帰ることを願うわけにも参らなかったものと拝察されます。 #0224【尸解の玄理(3) -実在する尸解仙-】>>
 水位先生を始め、菅原道真公しかり、和気清麻呂公しかり、源義経公しかり、楠木正成公しかり、人間界の濁流に飲まれて沈没することなく、その使命を果たして神仙界へ上遷された真人達の御行蔵から、私達が学ばなければならないことは多分に存するでしょう。 #0279【『幽界物語』の研究(49) -楠木正成公のこと-】>> #0280【『幽界物語』の研究(50) -源義経公のこと-】>> #0281【『幽界物語』の研究(51) -菅原道真公のこと-】>> #0297【怪異実話(13) -和気清麻呂公のこと-】>> #0337【『異境備忘録』の研究(22) -紫房宮の七神仙-】>> #0338【『異境備忘録』の研究(23) -神仙界の刑法所-】>>
 
 
 
清風道人
カテゴリ:『異境備忘録』の研究
 

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