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#00329 2014.12.15
『異境備忘録』の研究(14) -肉転仙の幽助-
 
 
「明治九年三月五日、川丹(せんたん)先生、清定君(せいじょうくん)の御使に来る。この時、余(よ)問ふに、「友人に仙道を請慕する者あり、神界へ伴ひ給ふ事は如何(いか)に候や」、答に、「神の許容又御召しの外(ほか)、この川丹等濫りに伴ひ参る事叶はず。今日神界を窺ふとも、明日又その界を見んと思へども許容なき時は見る事能(あた)はず。清浄利仙君、杉山清定君、両仙の伴ひ給ふなれば、随分神仙界に参る事も出来るなり。然(しか)れども紫蘭宮(しらんきゅう)へは至る事能はず」。」『幽界記』

「明治九年十月一日、清定君に伴はれて神集岳に至る。この日、清定君に問ふ、「水位、諸神仙に伴はれ諸方へ参り候。苦しからざるや」、答ふ、「諸神仙に伴はれ参る事なれば我も嬉しき事なり、皆神仙等を尊敬して御導きを願へ。何れの神仙ともさゝ取る時は神仙の道に進む事遅し。又八方の神々に敵なき様にすべし。又人間(じんかん)にても同じ事、八方に敵ある時はその道成就し難し。又人間にて神仙の道を好み誠心なる者は幽界より我も守りやるなり、又国家の為には天神(あまつかみ)に祈るなり」。」『幽界記』

「利仙君は幽冥にて人間の事を天津神に祈り給ふ。杉山君は人間の得道する者を導き給ふ。故に水位もこの両仙の御導きによりて神界へ至る事を得たり。」『幽界記』

 宮地水位先生ほど自在にして深く正しき天機に契合された神仙界出入りも、清浄利仙君や杉山清定君の御啓導を得て可能であったということに注目しなければならないでしょう。川丹先生が水位先生を導かれて神仙界に伴われたのも、その背後には利仙君や清定君の御意図が働いてのことであり、川丹先生はこの両神の御使として水位先生を来迎されたので、水位先生といえども単独で自由に神境に交通されたのではないことを十分に考え合わさなければなりません。 #0233【『幽界物語』の研究(3) -幸安の師・清浄利仙君-】>> #0328【『異境備忘録』の研究(13) -杉山清定君-】>>
(水位先生が神集岳に入られた最も古い記録は明治八年二月二日のものですが、この時も川丹先生が清浄利仙君の使者として来迎されています。 #0321【『異境備忘録』の研究(6) -神集岳の形状-】>> )
 水位先生の門人の中にも、清浄利仙君や杉山清定君といった、いわゆる仙人的存在の御厄介にはならない、我は直ちに宇宙の大神霊に感合し、四海と春風に座して天下を睥睨(へいげい)するのみといった鼻息の荒い道士が存したようですが、常磐先生や水位先生が大山祇神、少名彦那神に謁見されるに至ったのもその前身が神集岳の神官というだけでなく、一度地上に胎生して肉体生活を経られた玄胎化作(けさ)の仙真達の幽助があってのことで、このことは高山寅吉、島田幸安等、古来よりの幽顕交通者に共通しています。 #0232【『幽界物語』の研究(2) -幸安の幽顕往来-】>> #0317【『異境備忘録』の研究(2) -手箱神山開山-】>>
 こうした幽理を弁えず、現実に即しない勝手な自己陶酔が往々にしてその周囲を誤り、長年に亘って仙道の修行を修したとしても帰幽後は神仙界どころか山人界や愚賓界に編入されることさえ叶わず、地縛の霊として一種の夢幻界を彷徨(ほうこう)し、霊格向上の転機を失うことになりますので要注意です。 #0236【『幽界物語』の研究(6) -愚賓・鬼とは?-】>> #0275【『幽界物語』の研究(45) -人霊の行方-】>>
(「紫蘭宮へは至る事能はず」とあるように、この時は未だ北天神界に水位先生を伴うことは許されていなかったようですが、後に位階が進まれた先生は北極紫微宮への参朝を果たされています。 #0319【『異境備忘録』の研究(4) -幽界の大都-】>>
 また、徳を積み功を立てる願望を持つ方は、「何れの神仙ともさゝ取る時は神仙の道に進む事遅し。又八方の神々に敵なき様にすべし。又人間(じんかん)にても同じ事、八方に敵ある時はその道成就し難し」ということについて、よくよく心得ておくべきでしょう。 #0256【『幽界物語』の研究(26) -積徳について-】>> )

「清浄利仙君、川丹先生、部令君(ぶりょうくん)、広原大霊寿真人(こうげんたいれいじゅしんじん)、氷川上霊寿真童(ひょうせんじょうれいじゅしんどう)等の肉転人、幽界にて神仙界より人界へ事を告げる。或(あるい)は人間より得道する者を神界へ取次する役目なり。」『異境備忘録』

 上記のように、『異境備忘録』にも肉転仙の幽助について記されていますが、どういう訳かその中に杉山清定君の御名を脱しています。これは様々な霊的制約によって水位先生の筆管から脱漏したものと思われますが、高山寅吉が師・杉山僧正について「私の師は何か思う旨があると見えて、深くその徳を包み、身を隠して山人となり、人に拝まれ祭られることは好まれません」と語っているように、これは杉山清定君の御意図があってのことと窺われます。 #0160【『仙境異聞』の研究(25) -陰徳を積む-】>>

「○○○○○○○○大人、○○○○○○○○大人、○○○○○○○○大人の代命にて日本国の天狗を掌りたる天之息志留日々津高根火明留魂之王命(あめのおきしるひびつたかねほあかるたまのみこのみこと)、天之足日風切別高根彦王命(あめのたるひかぜきりわけたかねひこのみこのみこと)、頸上之端取吉備津彦王命(くびかみのはとりきびつひこのみこのみこと、高島左貫大綾津日臣奇幸彦王命(たかしまのさぬきおおあやつひのおみくしさちひこのみこのみこと)、玉樫之空津彦之王命(たまかしのそらつひこのみこのみこと)など申す神は、朝拝の時々は必ず拝すべき神なり。
 又、この神等(かみたち)は神憑りなどして正心の人の信仰によりては種々(くさぐさ)の奇術を教へ、且つ著述などする人には、心に憑りて発明なる事を思ひ出さしむる神なり。」『異境備忘録』

 水位先生には一つの筆の癖があり、山人界や愚賓界など地に属する幽界を大雑把に「天狗界」と記される傾向があることを含んでおく必要がありますが(杉山僧正を天狗と呼んで注意を喚起された記述も『異境備忘録』中に見えます)、日本の地仙界を掌るこの五柱の代命神の上位に坐す三柱神の御名は人間界に漏らすことを固く禁じられており、その人を見定めずして一般公開することは許されておりません。
 しかしながら、この三神を合して天岐根押毘三柱神(あまきねおしひみはしらのかみ)と称し奉り、五柱神と共に神憑りの道に感(かま)げ給いて奇霊(くしび)の神術(かむわざ)に幸(さきは)え給う神であることだけ記しておきたいと思います。
(もともと日本の山人界は、神武天皇の御宇、天日鷲命(あめのひわしのみこと)の命を受けたこの三柱神によって開かれましたが、実はこの三柱神も人間として生を享け、神仙得道の法を修して長生不死の道を成就し、仙境に遷られた肉転仙であることが伝えられています。 #0169【神仙の存在について(7) -神仙得道の法-】>> #0188【神倭伊波礼毘古命の誕生】>> #0324【『異境備忘録』の研究(9) -長生不死の道-】>> )
 
 
 
清風道人
カテゴリ:『異境備忘録』の研究
 

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#00256 2013.10.5
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#00188 2012.8.27
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「この天津日高日子波限建鵜葺草葺不合命(あまつひこひこなぎきたけうがやふきあえずのみこと)、その姨(みおば)玉依毘売命(たまよりびめのみこと)に娶(みあい)まして生みませる御子の名(みな)は、五瀬命(いつせのみこと)、次に稲氷命(いなひのみこと)、次に御毛沼命(みけぬのみこと)、次に若御毛沼命(わかみけぬのみこと)、またの名(みな)は豊御毛沼命
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#00169 2012.5.5
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 この話は、宮地厳夫先生(宮内省式部掌典として明治天皇の側近を務められ、また秘かに宮地神仙道の道統を継承されていた神道界の重鎮)が、明治43年に華族会館において神仙の実在について講演された筆記録で、この講演筆記は当時の国学院雑誌をはじめ、神道界の諸雑誌にも掲載されたものです。(現代語訳:清風道人)

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#00160 2012.3.13
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「お前の師である杉山山人は、誠に神通自在で道徳も類なく聞える。だから宮を構えて祭ろうと思うのだが、どうか霊代(みたましろ)とする幣(ぬさ)を切ってくれないだろうか。」 
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