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#00324 2014.11.15
『異境備忘録』の研究(9) -長生不死の道-
 
 
「明治八年二月十五日、召ありて筆山(ひつざん)より至る。玄丹先生に伴はれて行く。抑々(そもそも)この山は加久土命(かぐつちのみこと)、石長姫命(いわながひめのみこと)を祭る。又、加久土御室山と云ふ。火気甚(はなは)だくして草木生ぜず(阿波国五剣山の乾(いぬい、北西)の方にあり、一国の高山なり)。
 この時山上に至れば、石上に小童君坐(ま)しませり、御言(おことば)を戴く。拝伏し居たりしに、小童君、太玄生符(たいげんせいふ)を取り出し給ひ、傍の石に温めて、「これを飲め」と宣(のたま)ひて授け賜ふ。その符は口中に入れば粉になりて消たる心地なりしが、「これは腹中にて元の如くつけてあるものぞ」と宣へり、それより帰る。」『幽界記』

 筆山は高知市内を流れる鏡川の南に位置する丘陵で、潮江天満宮もこの山麓にありますが、宮地水位先生はしばしばこの山中より神仙に伴われて幽境に入られたのでした。 #0316【『異境備忘録』の研究(1) -概略-】>>

「明治八年二月十五日夜、火室山(ひむろやま)と云ふ神界に至りて、小童君に拝謁して太玄生符を受く。○○○を制して丹砂(たんしゃ)を以て書きたる物なり。」『幽界記』

「明治九年一月二十六日、大国主神の治め給ふ心安真宮(しんあんしんきゅう)へ小童君の供(とも)して至る。この時長命之符二枚を受く。桃板に丹砂(たんしゃ)を以て書す。」『幽界記』

 神仙の道を求める道士で、得道して仙列に加わり、神仙界の真人(しんじん)となる者が、いわゆる「名を仙籍に上る」際に、親しく青真小童君少名彦那神より太玄生符を賜ることについては前述した通りですが、『雲笈七籖(うんきゅうひちせん)』には次のように記されています。 #0323【『異境備忘録』の研究(8) -青真小童君-】>>

「東海青華小童の曰く、余(よ)、曩(さき)に恭(うやうや)しく太上(だじょう、太上老君伊邪那岐大神)の嘉命(かめい)を承(う)けて青華の宮を守り、衆仙玉女(ぎょくじょ)、妙行の真人左右に侍衛(じえい)し、学生之人を統摂(とうせつ)す。東殿の金房に宝経玉訣(ほうきょうぎょくけつ)有り。この内の要(かなめ)は左乙を端と為す。太上、余に勅して導誘休むこと勿(なか)らしむ。こゝを念(おも)ひて心に在り。天宝禁重く、軽々しく伝うることを得ず。これを伝うるに必ず先(ま)ず太上に啓告して乃(すなわ)ち施行することを得。学ぶ者多しと雖(いえど)も真を会する者少なし。これを出さば懼(おそら)くは泄宝之災を招かむ。これを閉ずれば絶道之咎(とが)を慮(おもんばか)る。積感の時を淹(ひさし)くし歳を累(かさ)ぬ。」

 「学生之人」というのは長生(ちょうせい)を学ぶ人という意味で、神仙道を「不老長生の道」「長生不死の道」等と申しますが、現界の肉身のまま百歳或いは百二十歳という長寿を得るというような意味ではなく、何人といえども胎生の肉身が死を免れることが出来ないのは造化の神理であり、人寿に定命があることは『幽界物語』中にも記されている通りです。 #0263【『幽界物語』の研究(33) -寿命について-】>>
 「長生不死の道を得る」というのは、死の関門を通過しても生命が終わることなく、何らかの方法で仙果を結んで太玄生符を授かり、霊妙なる玄胎を結成して数百年或いは数千年の寿命を賜り、長く天地の間に生存することを指してこのように称します。 #0168【神仙の存在について(6) -仙去の玄法-】>> #0226【尸解の玄理(5) -本真の練蛻-】>>
 この玄理については、人寿を与えられた霊魂が母胎内で肉体を結成し、現界に生まれて人間としての生涯を送ることを考えれば、仙寿を与えられた霊魂が仙胎を得て神仙界に転じ、神仙としてその生涯を送ることも容易に首肯し得られるでしょう。
 ならば通常人の帰幽霊との相違はどこにあるかといえば、通常の人は霊魂の凝結力が弱く清明度も低いために死と同時に陽気が失われ、陰霊となってその魂徳も極めて希薄となり、純陽の霊域(神仙界を始めとする高次の諸仙界)に至ることを得ず、その多くは地に属する幽界に入って夢幻のように存し、転生や再生といった再修業の機会を与えられなければ次第に凝結力が失われ、やがては大霊に帰することとなります。 #0222【尸解の玄理(1) -神化の道-】>>
 しかしながら、甚だしく悪念や怨念が凝結した者の霊魂は凝結が容易に解けることがなく、悪気や濁気が充満する重濁な界に属して永く苦痛を受けることとなりますが、これも自らが招いた結果であり、ただ造化の玄理に従って自然に配属先が決定されるのでしょう。 #0144【『仙境異聞』の研究(9) -人や鳥獣の魂の行方-】>> #0273【『幽界物語』の研究(43) -幽界の禍物-】>> #0275【『幽界物語』の研究(45) -人霊の行方-】>>

 さて、太玄生符はその語が示す通り「生」に関する霊符で、「太玄」の字が冠せられているのはその宗符であるからですが、水位先生も「太玄生符と云へるは幾万符ある中の第一等にてこの符に勝るものなし、これ口を極めて云ふ」と手記されています。
 この太玄生符は水位先生が口を極めて「第一等の符」と云われるだけあって、その消息については数ある道書類においても老子の伝に見えるだけで、それによると、老子が弟子であった徐甲にこの符を施行し、人寿が尽きた後も二百余年に亘って生命を保たしめたのですが、徐甲が美女に出逢って婚姻を願い、老子に対して二百余年分の雇用金を請求したところ、太玄生符が忽(たちま)ち除甲の口中より飛び出し、その肉体は瞬時に白骨となったことが伝えられており、これは太玄生符の施行法の消息の一端が漏れたものでしょう。
 水位先生によれば、太玄生符は総じて六十四符あり、万霊の集散去来に関する生符の根本符で、伊邪那岐神及び少名彦那神が主宰し給う至重至秘の尊符であり、人間道士はもとより下位の神仙や仙人、山人という位階を有する者ですら総符六十四符の消息に精通することは許されず、支那仙界の神仙でもこの内の三十余符を伝承されるのみであることが伝えられています。 #0235【『幽界物語』の研究(5) -幽界の位階-】>>

 地上における帰幽霊の出自進退集散に関す消息は幽事中でも最大の幽事に属するものとされていますが、かくして水位先生は、万霊万神を生み給いて北天神界に鎮まります大尊神・三天太上大道君天皇大帝伊邪那岐大神の代命として神集岳・万霊神岳を始め諸多の神仙界を主宰し給う宇宙的大神仙・東海大神仙王金闕上相大司命青真小童大君少名彦那大神より太玄生符法や六甲霊飛法を始め諸々の神法道術を直々に伝授され、その多くを人間界に招来されたのでした。
 
 
 
清風道人
カテゴリ:『異境備忘録』の研究
 

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