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#00160 2012.3.13
『仙境異聞』の研究(25) -陰徳を積む-
 
 
『仙境異聞』( #0136【『仙境異聞』の研究(1) -概略-】>> )より(現代語訳:清風道人)

平田先生 :ある人が寅吉に次のように云った。
「お前の師である杉山山人は、誠に神通自在で道徳も類なく聞える。だから宮を構えて祭ろうと思うのだが、どうか霊代(みたましろ)とする幣(ぬさ)を切ってくれないだろうか。」 #0115【物実の神術について】>> #0141【『仙境異聞』の研究(6) -寅吉の師・杉山僧正-】>>

寅吉 「それは全く無用のことです。その訳は、私の師は何か思う旨があると見えて、深くその徳を包み、身を隠して山人となり、人に拝まれ祭られることは好まれません。私が下山する時も、一般の人には岩間山で称する名だけを云って、志ある人であっても双岳、古呂明という道号までは云っても、実名は云ってはならないと固く戒められます。
 そのためか、不測にも山にいた時ははっきり知っていた師の実名を、今どんなに考えても思い出されず、ただ何某王(なにがしのみこ)といって、三千歳余りの人だということだけ確かに覚えています。このように古い方ですので、昔の戦(いくさ)があった頃のことや、源義経などのことも、最近のことのように折々話されることがあります。
 さて、これは私の考えですが、師が祭られることを好まれないのは、常日頃から世の人が仏を尊び、天狗に祈り、または鳥獣木石などで何か不思議なことがあると、それを祭ることを嘆かれて、そのようなものを崇(あが)め祭るために心が移って神を粗略にするからだと思われます。 #0137【『仙境異聞』の研究(2) -山人・天狗・仙人とは?-】>> #0144【『仙境異聞』の研究(9) -人や鳥獣の魂の行方-】>>
 もし崇めるべきことがあっても、その時々に応じて祭り、また祟(たた)りのないように和(なご)めもして、祭り過ぎないよう、祠(ほこら)なども数多くないようにしたいものであると云われることからも、師を拝み祭ることは神を粗略にする一因ともなるように考えられてのことだと思います。
 また、天狗を信仰することも良いことではありません。ましてや鳥獣木石などを祭ると、直ちに邪天狗、妖魔、様々な鬼物が寄り憑(よ)りかかって願いを叶えます。縁切り榎(えのき)、首絞め榎などと云いますが、全て物に憑依して効験を現すのです。「鰯の頭も信心から」というように、藁(わら)人形に祈っても直ちに鬼物が寄り来ります。 #0158【『仙境異聞』の研究(23) -偶像崇拝について-】>>
 実に嫌なことですが、人はそれを知らず、悪魔はそのようなことがないかと常にうかがっています。効験さえあれば良いと人は思いますが、正しい神がおわしますのに、それを差し置いて悪魔を尊び拝むことは、やがてそれが魔縁となることを弁(わきま)えていない浅はかなことです。」 #0146【『仙境異聞』の研究(11) -狐が人に憑く?-】>> #0147【『仙境異聞』の研究(12) -悪魔は存在する?-】>>

 杉山僧正が人から拝まれたり祭られることを忌み嫌われるのは、さらに二つの理由があると思われます。
 まず第一に、イエス・キリストの「汝等祈る時、偽善者の如くあらざれ、彼らは人に現さんがために、会堂や大路の角に立ちて祈ることを好む。汝は祈る時、己が部屋に入り、戸を閉じて、隠れて汝の父に祈れ。されば隠れたるを見給う汝の父は報い給わん」という言葉にもあるように、聖人とはそんなもので、人に奉られることを好まず、陰徳を積むことを重視します。それは、人知れず世のため人のために尽くして自らの使命を果たし、さらに上位の界へ遷るという自然の摂理を弁(わきま)えているからでしょう。 #0046【陰徳を積む】>> #0150【『仙境異聞』の研究(15) -山人界の修行-】>> #0154【『仙境異聞』の研究(19) -山人の食事法-】>>
 また第二に、人々に祭られ、さらに実名を知られるということは、その人々からの念を直接受けることとなり、人の祈りは往々にして自分は正しいと思っていても神の側からすれば邪(よこしま)な場合が多いという事実からも、それによる悪影響を排除するためと思われます。 #0142【『仙境異聞』の研究(7) -人間の祈りの実相-】>>

 老子の思想のキーワードともいうべき「無為自然(自然にして為さざる無し)」も、「偉大なる道の徳(はたらき)は、万物を生成しつつ、その跡を残さず、その徳の成果はあれども、その形は見えない」というもので、人間のあるべき姿もこの天地自然の姿と同じであることを説いています。(この「偉大なる道の徳(はたらき)」とは、日本の神道でいえば「自然界を司る八百万神の神徳」のことで、その神恩のことを「恩頼(みたまのふゆ)」と申します。  #0044【祈りのメカニズム(4)】>> )
 老子に面会して道と徳について教えを請うにあたり、まず自分の思想についてとうとうと語った孔子に対して、老子が次のように諭したことが伝えられています。

「良い商人は物品をたくさん持っていてもそれは店の奥にしまい、表ではさほど持っていないように振る舞うものです。徳の高い人もこれと同じで、どれほど徳を積んでいようとも、それを隠して凡人のふりをするのが真の賢者です。しかしあなたは自らの知識をこれ見よがしに披露し、既に野心が現われています。」
 
 
 
清風道人
カテゴリ:『仙境異聞』の研究
 

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寅吉 「山人というのは、この世に生まれた人が、何か訳があって山に入って姿を隠し、自然に山中のもので衣食の用をなすことを覚え、鳥獣を友とする人
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