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#00290 2014.4.26
怪異実話(6) -母の心願によって救われた人のこと-
 
 
『奇談雑史』( #0285【怪異実話(1) -紀州八木山の里の山神祭のこと-】>> )より(現代語訳:清風道人)

 下総国・羽鳥の里という所に、その名を周長という医者が住んでいましたが、心に叶わないことがあって世の中のことを厭(いと)い、山に入ってひっそりと暮らそうと思って秘かに家を出て甲州へ往き、身延山の奥にある七面山よりさらに山深く入って行きました。
 周長は松脂(まつやに)の粉末を袋に入れて持っていたため、それを舐めつつ木の下や岩の陰を宿としていましたが、日数を経るほどにその身はとても軽くなり、かくしてその身体に黄色の毛を生じて獣のようになりました。

 そうしたところ、怪異なことに故郷にいる母親の姿が目の前に現れて「国に帰れ」と勧めるように見え、その姿はたちまち消えもし、また現れては「国に帰れ」と勧めることがしばしばになりました。
 かくして周長が山に入ってから八十日ほど経た後、山を下りて人里を訪ね出ると、信州のある里に出ました。彼を見た里人はその恐ろしい姿形の恐ろしさに怪しく思いましたが、里人にその理由を告げて食物を乞い、食したところ、元のように身は重くなりました。

 それより周長は故郷に帰り、山にいた時に母の姿が現れて「故郷に帰れ」としばしば云われたことを畏(かしこ)んで戻って来たことを告げたのですが、母は滑川寺の観音へ裸足参りの日参を行って「我が子を国に帰らしめ給え」と一向(ひたすら)に祈っていたとのことでした。
 月日を数えてみると、山奥で母の姿形が見え始めた日と故郷で母親が滑川寺観音へ日参を始めた日とは同日で、これは全く母親の心願が届いたということでありましょう。

(清風道人云、この男を救うために出現した母親の姿は、息子を思う心願が凝結した分霊(分魂)と思われますが、その一念を凝らした祈りの力が強大であったため、肉眼に映じるほどの霊体となって息子の眼前に出現したのでしょう。 #0118【大国主神の幸魂奇魂】>> #0229【尸解の玄理(8) -「天意を自覚する」ということ-】>> #0258【『幽界物語』の研究(28) -参澤先生の霊的体験-】>>
 また、「仙童」寅吉によれば、各地の山々には山人界に属する幽境が存在し、その住人である山人たちによって人間の祈願が遂げられるとのことで、この奇跡は下総国・羽鳥の里及び信州・七面山を管轄とする山人による幽助があった可能性も大いに考えられます。 #0142【『仙境異聞』の研究(7) -人間の祈りの実相-】>>
 いずれにしても、清浄利仙君の言葉を拝借するならば「子孫のために祈るのは仁術」であり、息子のために一心不乱に祈り続けたこの母親は大いなる善徳を積んだことは間違いないでしょう。 #0256【『幽界物語』の研究(26) -積徳について-】>>
 『古事記』にも、大穴牟遅神の母神である刺国若比売命が息子の死を憂いて高天原に昇り、神皇産霊神にそのことを報告して再生すべき詔を請願し、その詔によって二柱の姫神が地界に降され、神術によって大穴牟遅神がさらに壮麗な男神として蘇生したという伝承が見えますが、我が子を思う親の純粋な祈りは必ず幽境に通じ、尊き神々をも感動させる霊徳を有しているものと思われます。 #0104【大国主神の受難】>> )
 
 
 
清風道人
カテゴリ:怪異実話
 

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#00285 2014.3.27
怪異実話(1) -紀州八木山の里の山神祭のこと-
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 この『奇談雑史』は、宮負先生が
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#00258 2013.10.17
『幽界物語』の研究(28) -参澤先生の霊的体験-
『幽界物語』( #0231【『幽界物語』の研究(1) -概略-】>> )より(現代語訳:清風道人)

参澤先生より書簡で問 「弘化二(1845)年正月二十四日の夜、夢の中で前年十一月十九日に死んだ駒木根(こまきね)又一久富(またいちひさとみ)の家宅に参りました。かねて心に掛けていた幽冥のことを問い試みようと思い、家の裏口から竹垣の上を
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#00256 2013.10.5
『幽界物語』の研究(26) -積徳について-
『幽界物語』( #0231【『幽界物語』の研究(1) -概略-】>> )より(現代語訳:清風道人)

参澤先生より書簡で問 「私は軽い仕官で小身であり、家人が多いため内業も致したいのですが、幼少より諸人のためになることを致したい志願があり、農・工・商の業は好きではありません。ただ神教幽顕の大道によって人を導こうと存じ、その書を広め、か
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#00229 2013.4.26
尸解の玄理(8) -「天意を自覚する」ということ-
 伊邪那岐大神の化生の大神術は、平田篤胤先生の言葉を拝借するならば「その大御霊(おおみたま)を一偏(ひとむき)に所念(おもお)し凝らし給ふ」ことに存しますが、この句の精粋を採ってみると「凝念」の二字となり、つまり化生の神術の根本は「念を凝らす」ということに帰着します。 #0049【化生神と胎生神】>>
 一偏(一向)に念を凝らす、
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#00142 2011.12.3
『仙境異聞』の研究(7) -人間の祈りの実相-
『仙境異聞』( #0136【『仙境異聞』の研究(1) -概略-】>> )より(現代語訳:清風道人)

平田先生 :ある時、門人で貧困な者たちが二、三人集まって、互いにため息をつきながら苦労話をしていたところ、寅吉がそれを聞いていて、次のように語った。

寅吉 「人間というものは自分のことだけをすればすむと思っていましたが、自分の思う
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#00118 2011.7.29
大国主神の幸魂奇魂
「ここに大国主神愁(うれ)ひまして、「吾(あれ)独(ひとり)して何(いかで)かこの国を得作らむ。いづれの神と与(とも)に吾(あ)は能(よ)くこの国を相作らむ」と告(の)りたまひき。この時に海(うなばら)を光(てら)して依(よ)り来る神あり。その神言(の)りたまはく。「我が前(みまえ)を治めば、吾能(よ)く共与(ともども)に相作り成さむ。もし然(
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#00104 2011.5.17
大国主神の受難
「かれ、ここに八十神(やそがみ)怒りて、大穴牟遅神(おおなむちのかみ)を殺さむと共に議(はか)りて、伯岐国(ははきのくに)の手間の山本に至りて云ひけるに、「赤猪(あかい)この山にあるなり、かれ、我共に追ひ下さば、汝(なれ)待ち取れ。もし待ち取らずば、必ず汝を殺さむ」と云ひて、火を以て猪(い)に似たる大石を焼きて転(まろ)ばし落としき。ここに追ひ
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