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#00262 2013.11.9
『幽界物語』の研究(32) -夫婦の縁-
 
 
『幽界物語』( #0231【『幽界物語』の研究(1) -概略-】>> )より(現代語訳:清風道人)

茨木先生・島田幸安・参澤先生より書簡で問
「清玉異人童(幸安)が後に幽界往来を止めた時は、またこのような仙童を世に拵(こしら)え給うのでしょうか。清玉一人に限るのも不自由と存じますが、いかがでしょうか。
 さて、利信(参澤先生)・次順(茨木先生)両人の前世、三井語子(みいのごし)・萩井道春(はぎいのみちはる)が死んで後、今の身に生まれるまでの幽界での年数はいかがでしょうか。
 また、清玉の前世・寒敬夫の妻の名、次順の前世・萩井道春の妻の名、利信の前世・三井語子の妻のことを詳しく承りたく存じます。」 #0246【『幽界物語』の研究(16) -幸安の使命-】>> #0253【『幽界物語』の研究(23) -参澤先生の入門-】>> #0261【『幽界物語』の研究(31) -茨木先生の入門-】>>

利仙君より答 「今のところ幽界の神使は清玉である。他に二人ほどいるが、余り望みはないように見える。この道は、清玉・利信・次順の三人より人間(じんかん)に伝えるのだ。元来清玉を両界に往来させたのも、利信・次順両人のために致したことである。これ以上の訳は機密のため申し難い。
 さて、語子が死んだのは天明年中(1781~1789年)である。宗哲として生まれるまでは二十五年幽界にいた。道春が死んだのは安永年中(1772~1781年)で、英寿として生まれるまでは三十年幽界にいた。 #0013【「生まれ変わり」の事実(1)】>> #0014【「生まれ変わり」の事実(2)】>>
 次順の今の妻の前世は、紀伊国の町人で名を勇之助と申した信心の良い男である。その徳によって女に変性し、次順の妻となった。仕合(幸)せの良い女である。寒敬夫の妻は白婆義氏と云い、道春の妻はおけいと云う。
 語子の妻はお三輪(みわ)と云ったが、死んで後、語子が宗哲として生まれた時、また妻になりたくて汝の伯父・次大夫の娘・芳野(よしの)として生まれ、宗哲を心に慕っていたが命短く、夫婦の縁を結ぶことはできなかった。今は九州赤山の近辺にある姑山(こざん)と申す所に在る。自ら一所の境を定めおり、官位ある女で名を大藤代婆者日姫命(だいとうだいばものひひめのみこと)と申す。利信とは至極の縁があり、三度も夢中で情を通じたことがある。 #0259【『幽界物語』の研究(29) -夢について-】>>
 者日姫命(ものひひめのみこと)は幽界で利信が来るのを待っている。それ故、利信は人界でどれほど親しい妻を持ってもただ一世の契りである。無窮に定まっている妻は芳野であると申し伝える。」

 清浄利仙君のご返答の中に「他に二人ほどいるが、余り望みはないように見える」とあり、例え謫仙(たくせん)として人間界に生まれてもその使命を全うすることの困難さが窺われますが、神伝の国譲りの段で、第二の神使として天降りながら、天津御祖大神(あまつみおやのおおかみ)たちの神勅に背いてしまった天若日子(あめのわかひこ)のことが想起されます。 #0125【第二の神使、天若日子降る】>>
 また、「これ以上の訳は機密のため申し難い」とあるように、幽界には現界に漏らしてはならない機密事項が存することが分かります。
(今では「しあわせ」に「幸」の字を当てますが、江戸時代までは「仕合せ」と表記されており、その「し」は動詞「する」の連用形で、つまり何か二つ以上のことがタイミング良く「合う」ことが「しあわせ」であり、別の言葉でいえば「めぐり合わせ」に近く、「仕合せの良い人」とは「運の良い人」というような意味です。)

参澤先生 :四月十日、私の幽境の妻・者日姫命の許へ、次の書簡を幸安に託して贈った。

「私の前世のことなどを師の仙君様より承り、はたと思い当たることがありますので、それを荒々と申し上げ奉ります。
 私は前世で丹波国の神官として生まれ、名を三井語子と申しましたが、その時あなた様の御名はお三輪と申して、私の妻でした。そして私は身死(みまか)って後、再び紀伊国・若山南の新地に生まれ、名を参澤直楠(なおくす)と申します。今は名を宗哲と云い、利仙君の教え子となって幽界に付く名は利信と申します。
 さて、あなた様は人界で、私の父の兄である岡崎村の庄屋次大夫の子として生まれ出給い、御名を芳野と申した時、私の妻になろうと思われたにもかかわらず命長くなく、ことを遂げることは叶いませんでした。その後は夢で逢い給うことが度々ありましたが、誠に天地と久しく絶えない夫婦の縁は、甚(いと)懐かしく奉り存じます。
 また、現界で身死(みまか)り給う前、次大夫の家に行った時、私を親しく見遣(みや)り給う面(おも)差しは、今も忘れられずにいます。後に私が仙境に至ったならば、不死の契りをなそうと相待ち給うことは、最も有り難く辱(かたじけな)いと、日ごとに御前を遥(はろ)かに畏(かしこ)み拝(おろが)み奉ります。」

参澤先生 :それに対する仙女からの返信は次のようなものであった。

者日姫命より 「書面の趣き、誠に有り難く奉り存じます。よくも文通を致して下さいました。何とぞこの界へ来られるように御待ち申し上げております。」

参澤先生 :また、者日姫命の振筆で「瑶池宴(ようちえん)」と申す書を三枚(書法は各々異なる)を差し越してくれた。関防(かんぼう、書画の右肩に押して書き始めの印とした長方形の印章)は「姑山」の文字名判で、「瑶池宴」とは婚姻祝賀の辞(ことば)である。

 幽顕を隔てた縁(えにし)深き男女の信愛の情は、『古事記』の日子穂穂手見命(ひこほほでみのみこと)と豊玉姫命(とよたまひめのみこと)の歌のやり取りにも見えますが、肉体及び魄霊の影響を受けない魂同士の恋慕の情は何とも麗しく、まさに穢れ無き純愛といえるでしょう。 #0015【人間の本性は善か悪か?(1)】>> #0187【鵜葺草葺不合命の誕生】>> #0250【『幽界物語』の研究(20) -女仙の姿-】>>
 また、男女夫婦に限らず、現界における縁も偶然によるものではないことについて、宮地水位先生が次のように記されています。 #0255【『幽界物語』の研究(25) -参澤先生のこと-】>>

「夫(そ)れ人には必ず天より定まりたる縁あり。縁ありて而(しか)して後に思はざるもまた会遇す。会遇して而して後に愛敬の心自ずから通ず。ここにおいて親愛の情の惹起し内意を通ずることを得、是(こ)れ天命の然(しか)らしむる所以(ゆえん)なり。」
 
 
 
清風道人
カテゴリ:『幽界物語』の研究
 

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