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#00633 2020.1.8
神人感合説(1) -無神論-
 
 
(清風道人云、この「神人感合説」は、宮内省式部掌典として明治天皇の側近を務められ、また宮地水位先生の仙去後にその道統と学系を紹統された宮地厳夫先生(道号・東岳)が、明治二十五年四月二十三日に東都井生楼で開かれた神道大演説会で一般人を対象として講演され、先生の門人であった酒井昇造氏がその要点を筆記されたものであります。 #0379【水位先生の門流(1) -道統第二代・方全先生-】>> #0380【水位先生の門流(2) -方全先生の幽顕往来-】>> )

 神人感合とは、神と人と相感する時は合して一体に成るとの事であります。その理(ことわり)如何となれば、元来人は神の霊(みたま)を賦与せられて生れ出たるものにて、一体と成るべき理を具へたるが故であります。 #0628【霊魂と肉体(6) -霊魂の種子-】>>
 然れども肉体より生ずるところの情欲の為に掩(おお)はれて神人相隔てらるゝものなれども、その掩ひたる情欲を除却して純粋なる霊魂のみに成りさへすれば神と人と少しも隔てが無くなり、所謂(いわゆる)神人感合して一体に成るもので、これは争ふべからざるところにて、我が日本は云ふまでもなく支那、印度、欧羅巴にても各々その伝承もあり、またその修行の方式も伝はりて居りますので、本邦にてはこれを鎮魂法即ち霊魂(みたま)鎮めと云ひ、支那にてはこれを内観法とも内視法とも胎息法とも感想法とも行気法とも云ひ、印度にてはこれを禅定とも座禅とも或は阿字観、日輪観、日想観など申すも皆この神人感合して一体に成るところの感じ方の方式であります。 #0222【尸解の玄理(1) -神化の道-】>> #0383【『本朝神仙記伝』の研究(1) -饒速日命-】>> #0429【『本朝神仙記伝』の研究(47) -白幽子-】>> #0445【『本朝神仙記伝』の研究(63) -山中山三郎-】>> #0452【『本朝神仙記伝』の研究(70) -足柄山五仙人-】>>

 また欧羅巴にてはこれをエキスターズと云ふ、これを翻訳すれば大死一番の境とでも云ひませうか、彼(か)の仏説にて定に入るとか涅槃に入るとか云ふと一般であります。
 今その各国に伝はるところの彼の神人感合の修行の法を述べたいと思ひますが、唯に一座の談話として聞き流しに致されず、お互ひに実際に体験して、神人感合と云ふはかういふものだといふ事を、よくよく感じ得て疑ひを容るゝ事の無い様に致したいものであります。

 また一つには近時何事も欧羅巴の流でなければ不可ないといふやうな風潮に成って居るかに見えますが否々決してさうではない、この神人感合の法などは殊更日本に良法が伝はりてありますれば、希(ねが)はくば外国の法よりもまず我邦の法を用ゐる様に致したい、またその感合の致し方に於ても種々の差別がありて、神は独一なるものと感ずるもあれば、否々神は沢山有ると感ずるもあり、また世界一切のものは皆神なりと感ずる感じ方もありて、中々一様には定まりませぬ。その中に就て私共の信ずる真実の感じ方がかくの如きものと云ふを区別を立てゝお話を致します。

 そこでこの話も我国の事より申し述ぶべき順序なれども、現今の青年諸君には先に日本の事をお話しても到底悦ばれませぬ。些か可笑しい様な事でも西洋流にやると、「彼は中々学問がある」とか「知識じゃ」とか云ふて悦んで聴いて居られるのが世間普通であります。そこでこの神人感合と云ふ題も即今欧羅巴にて唱ふるところの説の中より取り出して来ました。
 泰西(西洋諸国)ではこれをミスチジズムと云ひ、訳すると神人感合の説と云ふになります。この事はこれより追々順序立てゝお話致します。

 アチラでは諸学説多かる中にマテリヤリズム、スピリチュアリズムと云ふ二つの学派が有りて、その諸説を二つに統括して居ります。マテリヤリズムを訳すれば実質説と云ひ、即ち目に視え耳に聴ゆるこの肉体の五官に触れて感触を覚ゆる実質のあるものを研究する学説を云ひ、またスピリチュアリズムを訳すれば虚霊説となり、前の説とは全く反対で、形の無い目に視えず耳に聴えざる霊魂を目当てに研究する学派を云ひますが、その虚霊説の内にも諸説がありまして、サンシュアリズム即ち感覚説、イデアリスム即ち意象説、ハンテーズム即ち神物一体説、ミスチジズム即ち神人感合説などがあり、このミスチジズムが即ち本日の演題に取りたるものであります。

 さてこの神人感合の事を述ぶる前にまず以て弁じおかねばならぬ事がある、それは例へば荊棘(いばら)生ひ茂りたる原野に道を開かんとするには、まずその障害物となる荊棘及びその他の雑草を刈り除けて、さて初めて道路の開墾が出来るのであります。
 凡そ説を為し道を弁ずるもこれと同じ事で、神人感合の説を立てむとするには、まずその障害となるものを弁別致しておかねばならず、その障害となるものは抑々(そもそも)奈辺(なへん)に有るかと云ふに、彼のマテリヤズム所謂(いわゆる)実質説で、この説を信ずる人は皆無神論であります。
 神は無いと信じて居る人に、神人一体に成るの、神人感合が出来るのと云ってみたところで、ナニ馬鹿な、元来神など無きものが如何にして感合出来るか、と思はるゝは必定(ひつじょう)にて、これが所謂障害であります。

 そこでその神は無いと云ふ説の起きた出所は奈処に在るかと云ふに、支那にも印度にも各々無神論の出所は有りますれど、これも欧州の説にて云へば即ちこの実質説が眼目で、総てこの世界は六十五の元素が有ってその中に幾種かゞ相集まって諸物と成ってゐるもので、既に人間の身体の如きもこれを分析すればその内の十八元素にて成り立って居る、即ち炭素・酸素・水素・窒素、これ等はその中で重なるものにてその他、硫黄・燐・ナトリウム・カルシウム・マグネシウム・銅・鉄などの元素が十八種寄り合って成り立って居ると云ふが出所であります。

 そこで人間の霊魂と云ふものを実質説より云ふ時は、別に霊魂なるものゝある訳でなく、唯身体は十八元素が集合して成り立って居る、その各種の元素に各々生気を含んで居て、その生気が集合せし所より細胞をなし、その細胞より無数の運動力を発してそれが感覚力を起こし、その感覚が彼の五官より感ずるところを体中に散布する神経の絲網によりて脳髄に達してこれを止め、こゝに初めて記憶となり意象となり思想となり念慮となり分別となる。

 その他種々に活用して霊妙の徳を現す、これ則ち霊魂と名づくべきものにて、その他に別に霊魂と云ふべきものゝ有る筈はない、故に幼稚にして未だ何も知らざる児童の脳髄にはその何物も無き事、譬へば白紙に一点だに下さゞる前の如く少々の汚染だに無きものなるを、目に物を視て青・赤・黄・白・黒の色を感ずればその感覚を記性中に止めて青・赤・黄・白・黒の意象を発し、また耳に声を聴けば清・濁・徐・破・急の音を感じてその感覚を記性中に蓄へて清・濁・徐・破・急の意象を発し、その他鼻の香臭に於ける、舌の滋味に於ける、皆一度これを感覚して然る後これを記性中に蓄へ、時に臨み発して意象となり思念となること前に云へる通りなれば、人の脳髄には生れながらにては何も無きものなれど、耳目五官の感覚に出でゝ意象も知識も出来たるものにて、その他に別に精神・霊魂などゝ云ふものゝ有らう筈は無いから、死したれば身体は彼の十八元素は各々分散してその本性に還り、これに於て彼の感覚となり意象となり知識となりて仮に霊魂などゝ名づけられたりしものもこれと同時に全部消滅して存するものとては有ること無しと云ふ、これ即ち実質論より出ずる無神論であります。

 即ち生々としてものを言ふたり目に物を視たり耳に声を聴いたり心に事を識別する人間にさへ精神・霊魂が無いのであるから、況(いわん)や茫々たる宇宙に神などが有るべき筈がないといふことになって居ります。
 また地質学者などは段々地質を調べて地には幾層の地層があり、太古には獣骨のみにて人間の骨が無いところより考ふれば、人間は獣類から進化し来ったものだなどゝ、如何にも尤もらしく聞こえる説が沢山有りますから、頓と世の中の人が実は神は無いものだ、死ねば身体も共に消えて無くなると思ふて居るのが無神論であります。 #0097【世界太古伝実話(6) -先入観による弊害-】>>

 而して今お話致すところの感覚説と云ふにも、主内の感覚説と主外の感覚説との二つがあります。また意象説と云ふは如何なる所より出ずるかと云ふに、彼の感覚説即ち目で視て心に記し耳で聴いて心に記し身に触れて心に記すその心が種となりて作用を為すと云ふ、これは素よりその説の大体であります。
 一家を為す程の説でありますから中々これだけでは尽きませんが、その理を摘む時は前述の通りで、つまり主内の感覚説は有神論となります。主外の感覚説は要するに外より感じ込んだものばかりで心が出来ると云ふのだから、これは無神論であります。

 一つは内に感ずる種がある、その種は神の分け与へられたるものと云ふに帰するを以て主内感覚説は有神論に属し、主外感覚説は無神論である故に、意象説は主内感覚説とその旨を同うし、外より視ること聴くことなくとも生れながら自然に我に受け得たるものが有る、即ち精神、心霊、魂がこれであり、その物を我に授けたるものは即ち天地万物を造られたる神であると云ふところから、意象説は有神論に決まって居ります。これで大概感覚説と意象説の意の有るところはほゞお判りになったであらうと思ひます。

 それからハンテーズム即ち神物一体説の要旨は、なるほど神も有り我が精神も有るけれども、神と人と別なものではない、恰(あたか)も大海の潮水の様なもので、赤い器物へ潮水を入れゝば赤く見え、器物が黒ければ黒く見え、白ければ白く見ゆる如く、只器物の色が映るだけのことで、元の潮水には決して区別の有るものではない、人が死ぬればどうなるかと云へば元の潮水に還るに止まる、決して宮地厳夫の霊魂、某々の霊魂と個々区別のあるものではない、ハンテーズム即ち神物一体だと云ふのであります。
 
 
 
清風道人
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