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#0051 2010.8.29
尸解の神術
 
 
「かれ、伊邪那美神(いざなみのかみ)は火神を生みませるに因(よ)りて、遂に神避(かむさ)りましき。」『古事記』

 これは、火神を生んだことが原因で、伊邪那美神は遂に地下の幽府に入られたという伝ですが、これを後世の人間的な「死」のように考えるのは大きな間違いです。平田篤胤先生もこのことについて、「神避り」=「葬り去る」などの解説はまったくの誤りであるとして、きびしく論じておられます。

 日本古学では、この伊邪那美神の「神避り」は「尸解(しか)」のはじめであるとされています。「尸解」とは中国の道教でも使用される語で、簡単にいえば、人里離れた高山などで修行を積んだ道士(仙人になるために修行をする者、方士とも呼ばれる)が、その死後、自分の肉体を消滅させて新たな霊胎(玄胎とも真胎ともいい、人間の肉体とは比較にならない霊妙変化自在の徳を備え、人間界とは次元が異なる仙界の幽真生活に適応する体)を化生して不老不死の存在になることをいいます。(日本では、「高次元の界へ遷(うつ)る人」という意味で「僊人」とも表します。) #0023【この世界だけがすべてではない】>> #0049【化生神と胎生神】>>

 司馬遷(しばせん、中国前漢時代の歴史学者)によって著(あらわ)された中国最古の歴史書である『史記』によると、紀元前3世紀、徐福(じょふく)という名の道士(方士)がおり、彼は名家の出であるにもかかわらず、立身出世や財を求めることを嫌い、ひたすら道を求めて仙術の修行に励んでいました。そして、不老不死の仙薬を求める秦(しん)の始皇帝の命令によって、約3000人の乗員と数十隻からなる船団を率いて東方の海へ旅立ったことが伝えられています。
 また古代中国の周代(紀元前1046~紀元前771)に書かれた『義楚六帖(ぎそろくじょう)』にも、「日本国は東海の中にあり、また倭国と名づく。秦の徐福、五百の童、五百の童女を将(ひき)いてこの国に止(とど)まれり」とあります。つまり、徐福は尸解の仙術を求めて古代日本(孝霊天皇の御代)にやってきたことがわかります。
 徐福は途中で朝鮮半島(今の韓国)に立ち寄り、その後日本にたどり着いたことも伝えられており、日本各地に徐福にまつわる伝承が存在しています。

 わたしたち日本人の祖先である太古の縄文人の遺骨があまり出土しないため、「縄文人は忽然と姿を消した」とされているのは、「他の大陸に移動した」のではなく、いわゆる学術的には全く知られていませんが尸解したためであり、この仙術の発祥が古代日本であることは、『古事記』や『日本書紀』などの日本の神典を考察して行けばさらに明確になってきます。(物質社会とは無縁で、現代人のようなストレスがなかったはずの縄文人が、今のわたしたち以上のある種の霊的能力を有していたであろうことは容易に推量できます。また、縄文時代の祭祀跡から出土する神器をみても、彼らが北天神界を中心として八百万神と交流する高次元の幽祭を行っていたことがうかがわれます。 #0033【「別天」とは?】>>
 また、今も宮中で行われている「四方拝」という神祭は、まず北天(北極星及び北斗七星)を拝することからはじまりますが、そういった古代の祭祀を継承しているものと思われます。 #0046【陰徳を積む】>> ) #0024【幽顕分界という歴史的事実】>> #0025【密接に関わりあう顕と幽】>>

 人類最後の命題ともいえる不老不死の探求は世界中に見られますが、古代中国の道教では胎息法(呼吸法)や練丹法によって、原始仏教の開祖である釈迦は断食と瞑想によってこの尸解の道を求め、古代エジプトの遺体保存や西洋の錬金術なども尸解法のごく一部が誤って伝わったものと考えられます。
 今でも野生の鳥獣類は幽界に通じており、尸解することがあることも伝えられていますが、この尸解の玄理の詳細については、宮地水位先生(1852-1904)や宮地厳夫先生(1847-1918)、清水宗徳先生(1910-1988)らのいわゆる宮地神仙道の学統によって解明されています。しかし、もし真伝を得てマニュアル通りに尸解法の修行を実践しても、この道を成就できるわけではないことも一言添えておきたいと思います。(人間界においても上司に認められなければ出世しないのと同じです。また、器が伴わないのに重職につくと、当の本人が大変苦しむことになります。)ここでは神典についての考究が主題であるため、この尸解については、また改めて後述したいと思います。  

 さて、この「伊邪那美神の神避り」の段(くだり)は、要するに神の世界には人間的な「死」というものは存在せず(神典のところどころに「死」という字が仮に用いられていますが、これらはカムサリ(神去り)、ミウス(身失す)、ミマカリ(身罷り)などと読まれ、その原義は尸解の意味です)、尸解という神術によって、肉体をその界に残すことなく新たな神胎を結成して別の幽界に入り、さらに高次元な存在に変化する神変を表しています。
 ちなみに尸解後の伊邪那美神は、その分魂(わけみたま)は愛しき那背君(なせのきみ)である伊邪那岐神に常に寄り添うこととなり、本魂(もとつみたま)は「菊理姫神(きくりひめのかみ)」というご神名で、地球内部の黄泉国(この時はまだ月に移される前の時代)の主宰神となったことが伝えられています。 #0006【太陽と月と地球の関係】>>

 今の自然界を見ても、地中界に住む蝉の幼虫や水中界で暮らす蛍の幼虫は、時が至れば地上界へ出顕して新たな胎を結び、飛行能力や発光能力をそなえることになりますが、これらの現象は、わたしたち人間から見ればまさに神術といえるでしょう。
 
 
 
清風道人
カテゴリ:日本の神伝
 

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