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#00409 2016.4.12
『本朝神仙記伝』の研究(27) -都良香-
 
 
 都宿禰良香(みやこのすくねよしか)は初めの名を言道(ことみち)と云へり。主計頭(かずえのかみ)・貞継(さだつぐ)が子にして、平安京の人なり。官に仕へて文章(もんじょう)博士少内記に至る。よく詩文を作りて、才名当時に冠(かん)たり。菅丞相(かんしょうじょう、菅原道真公)も、始め良香を師として文学を学び給へり。 #0281【『幽界物語』の研究(50) -菅原道真公のこと-】>>

 良香ある時詩を作りて、「気晴れて風梳(くしけず)る新柳の髪」と云へる一句を得たれども、その対句を案じ出すこと能(あた)はず。種々に思ひ煩ひてありし折しも、羅生門の下を通るとて、何心なくこの句を吟じけるに、不意にも羅生門の上にて高らかに声を発して、「氷消えて波洗ふ舊苔(きゅうたい)の髭」と云へるその対句を吟じける。
 良香この好対句を得て、奇異の思ひを為し居(おり)たりしが、その後大内にて菅丞相に逢ひ参らせ、「我この頃新詩を吟じ得たり」とて、この両句を見せられければ、菅丞相聞き給ひて、「この始めの句は最も君の句なるべけれども、対句は正しく君の句にあらず。これは定めて羅生門の鬼神の作れるものならむ」とぞ云はれける。良香驚きて、始めて菅丞相の神通を得ておはすことを知りて、感嘆したりしとぞ。 #0241【『幽界物語』の研究(11) -詩歌について-】>>

 良香また人々に誘(いざな)はれて江州・竹生島に遊び、明神の社に詣でけるに、四方見え渡りて誠に得も云はれぬ風景なりければ、心に感ずる儘に「三千世界眼前に盡(つ)く」と打ち吟じけるに、俄かに神殿鳴動して、特に気高く爽やかなる御声にて、「十二因縁心裏(しんり)に空し」と云ふ対句を吟じさせ給ふ。
 その御声独り良香のみならず、相伴ひし人々の耳にも鮮やかに聞こえしは、不測なりしことゞもなり。良香常にこの句を唱へて、神の感応を忘れざりしとぞ。

 良香平生その身は官職にありながら、心は常に神仙の道を慕ひて修練怠ること無かりしが、遂に仕へを止めて金峯山に入り、その終る所を知らずなりしと云ふ。 #0168【神仙の存在について(6) -仙去の玄法-】>>
 かくて百余年を経たる後、ある人大峯山に詣でゝ、石窟(いわや)の中に人の居るを見て、「誰人にて渡らせ給ふぞ」と尋ねければ、「我は都良香と云ふ者なり」と答へしによりて、良香の仙人と成り居ること、世にも知らるゝことゝなりけるが、その時の顔色、少しも衰へずて有りけるとかや。

 厳夫云、本伝は『三代実録』、『元亨釈書』、『神社考』、『江談抄』、『本朝高僧伝』、『西行撰集抄』、『梅城録』、『怪談故事』、『本朝列仙伝』等の諸書を参集してこゝに載せたり。
 『元亨釈書』には、菅丞相は元、良香の書生にて在りしに、後官爵日々に昇られて、良香のこれに及ばざることゝなりしを怒りて、官を棄て山に入りて修練することゝなりし如く記したれど、これは恐らくは謬伝(びょうでん)ならむ。

 如何にとならば、良香は固より非凡にして、神仙と成るべき道骨を具へたる偉人なりしこと云ふを待たず。それは、羅生門にて鬼神より対句を授けられたるのみならず、竹生島に於ても明神より対句を与えへられたりとあるを思ふに、これは幸ひに世に漏れ人に知られたる奇事にこそあれ、尚この外にもこれに類ひせる神異のことも有りたるべくして、その尋常の人にあらざること云はずして明らかなり。然れば良香は、必ず天命を知れる人ならむ。
 既に天命を知らず、窮達栄辱(きゅうたつえいじょく)皆人力の如何ともすること能(あた)はざる所なるを弁ぜざる謂(いわ)れ無し。既にこれを弁じたらむには、菅丞相の栄進せられしも、良香の発達せざりしも、固より命(めい)ならざるは無ければ、良香争(いか)でか菅丞相に及ばざるを怒るべき。これ余(よ)が謬伝ならむと疑ふ所以(ゆえん)なり。

 然らば良香は何の為に、官を棄て世を遁(のが)れたるかと云はむか、良香は元より仙縁ある人にして、生来仙道の修むべきを知りたること云ふを待たず。且つ我が天命の久しく官に居るべからざるを知りて、山に入りて道を修むることゝは成りしならむ。
 尚思ふに、菅丞相の御伝に、「南山即ち金峯山の隠者等が云々」と云へることの多く見えたるに、良香も金峯山に入りてその終る所を知らずと云ひ、また百余年を経て、ある人が大峯山の石窟にて良香に遭ひしと云へるを合せ考ふるに、良香も菅丞相の御託宣に「南山の隠者」と指されし中の一人にはあらざるか、尚よく考ふべし。

(清風道人云、自らの天命を悟り、また霊人より授けられた句を常に唱えて神の感応を忘れなかったという事実からも、都良香大人は凡俗の類ではなく、元より仙縁ある真人であったことが窺われますが、「平生その身は官職にありながら、心は常に神仙の道を慕ひて修練怠ること無かりし」ことも、前述の小野篁大人や宮地厳夫先生と共通しています。 #0375【『異境備忘録』の研究(60) -神仙道の心得-】>> #0405【『本朝神仙記伝』の研究(23) -小野篁-】>> )
 
 
 
清風道人
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 始め学業を事とせず、嵯峨天皇これを聞食(きこしめ)して、「既にその人の子たる者、何ぞ弓馬(きゅうば)の士とならむや」と難ぜさせ給ひし由(よし)を聞き、篁、大いに恥じ悔ひ、これより学に志したりとかや。
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#00375 2015.9.19
『異境備忘録』の研究(60) -神仙道の心得-
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#00281 2014.3.3
『幽界物語』の研究(50) -菅原道真公のこと-
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利仙君
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#00241 2013.7.7
『幽界物語』の研究(11) -詩歌について-
『幽界物語』( #0231【『幽界物語』の研究(1) -概略-】>> )より(現代語訳:清風道人)

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幸安 「仙境ではもっぱら詩歌を作ります。歌は三十一字です。詩は一章で、平仄(ひょうそく、漢詩を作る時に守るべき平声字と仄声字の配列)や韻字(句末で韻を踏む字)はありません。その
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#00168 2012.4.30
神仙の存在について(6) -仙去の玄法-
 この話は、宮地厳夫先生(宮内省式部掌典として明治天皇の側近を務められ、また秘かに宮地神仙道の道統を継承されていた神道界の重鎮)が、明治43年に華族会館において神仙の実在について講演された筆記録で、この講演筆記は当時の国学院雑誌をはじめ、神道界の諸雑誌にも掲載されたものです。(現代語訳:清風道人)

( #0167【神仙の存在につ
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