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#00110 2011.6.18 |
大屋毘古神のカムハカリ
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「ここにその大神の髪を握(と)りて、その室(むろや)の椽(たるき)ごとに結(ゆ)ひつけて、五百引(いほびき)の石(いわ)をその室の戸に取り塞(さ)へ、その妻須勢理毘売(すせりびめ)を負(お)ひて、すなはちその大神の生太刀(いくたち)と生弓矢(いくゆみや)、及び天沼琴(あめのぬごと)を取り持ちて逃げ出でます時に、その天沼琴、樹にふれて、地(つち)動(どよ)み鳴りき。かれ、その寝(いね)ませる大神聞き驚きて、その室を引き仆(たお)したまひき。しかれども椽(たるき)に結へる髪を解かす間に遠く逃げたまひき。かれ、ここに黄泉比良坂(よもつひらさか)まで追ひ至りて、遥かに望(みさ)けて、大穴牟遅神(おおなむちのかみ)を呼ばひて謂(の)りたまはく」『古事記』
大穴牟遅神(おおなむちのかみ)は、須佐之男命が安心して眠りについた後、その大神の髪を椽(垂木(たるき)、屋根を支えるために棟(むね)から軒先に渡す木材)に結び付け、大きな岩で室の戸を塞(ふさ)ぎ、須勢理姫神(すせりひめのかみ)を背負い、須佐之男命の生太刀、生弓矢、天沼琴を持って逃げることに成功しました。 #0109【須佐之男命の安心】>> しかしこの行為は、大穴牟遅神だけでなく、須勢理姫神も共に須佐之男命に対して有るまじき行為に見えますが、これは一体どういうことでしょうか? さらに、逃げる時に天沼琴が樹木に触れて黄泉国がどよめいたため、眠っていた須佐之男命が驚いて目を覚まし、その勢いで室を倒しましたが、垂木に結び付けられた髪を解いている間に二神は遠くへ逃げました。これも不可解な内容ですが、前後を照らし合わせてその深意を考究してみたいと思います。
まず、大穴牟遅神を後継の第三代地球主宰神として任命することは無上の大礼であり、また愛娘須勢理姫神の配偶の神とすることも、須佐之男命が心の中で思っているだけで正式に認めた訳ではなく(このままでは駆け落ち)、これを実行するためには何らかの神勅が必要です。(とくに日本人が礼節やけじめを尊ぶのは、これを受け継いでいるからでしょう。) #0105【主権君位の神】>> しかし黄泉国(よみのくに)は、須佐之男命の父神であり、初代地球主宰神である伊邪那岐神が特に忌み嫌う界であり、その穢(きたな)き界で、そのような重大な大礼を行うべきではないことは今日の人間界でも同じです。しかし月読神(つきよみのかみ)として黄泉国の主宰神となるべき須佐之男命は、もはや地上へ戻ることができないため、この大礼をどこでどのように行うかが大きな問題となります。 #0056【神々の怒り】>> #0057【女神の御心 -母性愛の起源-】>> #0062【三貴子の誕生】>> そこで、常に須佐之男命に寄り添う神である大屋毘古神が、これを幽界より神量(かむはか)り、大穴牟遅神と須勢理姫神は上国(うわつくに)で、須佐之男命は黄泉国にましたまま、大任を継承されるべく自然に成り行くように導いたものとうかがわれます。 #0106【神々の社会】>>
大穴牟遅神と須勢理姫神が大屋毘古神の神量によって逃げ出した時、須佐之男命はまだ眠ったままで、このままではこの重大な大礼を行うことができないため、天沼琴を自然に樹木に触れさせて黄泉国の地を震動させ、ようやく大神は目覚めることとなりました。しかし髪が垂木に結ばれており、それを解いている間に大穴牟遅神と須勢理姫神は遠く逃げ、二神が黄泉比良坂(上国と黄泉国の境界)を越えたちょうどその時に、ようやく須佐之男命がそこへ至り、黄泉比良坂を挟んで無事に大礼が行われることとなりました。
もし大穴牟遅神と須勢理姫神が逃げ出さなければ、もし天沼琴が樹木に触れなければ、もし髪が垂木に結ばれていなかったら、大穴牟遅神は顕界、須佐之男命は黄泉国という、最適な状況での大礼が行われることはなかったでしょう。 #0023【この世界だけがすべてではない】>> これはまさに、大穴牟遅神の御祖命(みおやのみこと)である刺国若比売命(さしくにわかひめのみこと)が大穴牟遅神を木国(きのくに)へ遣(つか)わした時、その神意を承諾した大屋毘古神が、冥々(めいめい)の内より神量(かむはか)られた結果でしょう。 #0107【大国主神と須勢理姫神の運命的出会い】>>
わたしたち人間も、日常生活の中で偶然に偶然が重なり、絶妙なタイミングでものごとが成就する場合がありますが、もし世の中に偶然はないとすれば、それは幽界より何らかの力がはたらいてのことと考えられます。 #0025【密接に関わりあう顕と幽】>> #0045【祈りのメカニズム(5)】>> #0047【祈りのメカニズム(6)】>> また、黄泉の穢れに触れた後は、伊邪那岐神ほどの大神でも禊ぎ祓えが必要なほどでしたが、この時はそのようなこともなく、これもやはり八百万の禍神を統率するほどの霊徳を備えた大屋毘古神の守護によるものとうかがわれます。 #0060【禊ぎ祓えの神術】>> |
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カテゴリ:日本の神伝 |
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▼関連記事一覧 |
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#0062 2010.10.25
三貴子の誕生
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「ここに左の御目を洗ひ給ふ時に成りませる神の名(みな)は、天照大御神(あまてらすおおみかみ)。次に右の御目を洗ひ給ふ時に成りませる神の名は、月読命(つきよみのみこと)。次に御鼻を洗ひ給ふ時に成りませる神の名は、建速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)。」『古事記』
「この時伊邪那岐命、大(いた)く歓喜(よろこ)びて詔(の)り給はく、「吾(
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#0060 2010.10.14
禊ぎ祓えの神術
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「高天原(たかまのはら)に神留(かむづまり)ます神漏岐(かむろぎ)神漏美(かむろみ)の命(みこと)以(もち)て。皇御祖神(すめみおやかむ)伊邪那岐命(いざなぎのみこと)。筑紫(つくし)の日向(ひむか)の橘(たちばな)の小門(おど)の阿波岐原(あわぎはら)に。身滌(みそぎ)祓ひ給ふ時に生(あれ)ませる祓戸之大神等(はらえどのおおかみたち)。諸(も
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#0057 2010.9.28
女神の御心 -母性愛の起源-
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「最後(いやはて)にその妹(いも)伊邪那美命、身(み)自ら追ひ来ましき。ここに千引石(ちびきいわ)をその黄泉比良坂(よもつひらさか)に引き塞(さ)へて、その石(いわ)を中に置きて、各(あい)対(む)き立ちて事戸(ことど)を度(わた)す時に、伊邪那美命言(まお)さく、「愛しき我(あ)が那背命(なせのみこと)かくしたまはゞ、汝(いまし)の国の人草(
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#0056 2010.9.23
神々の怒り
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「ここにその妹(いも)伊邪那美命(いざなみのみこと)を相(あい)見むと欲(おもお)して黄泉国(よみのくに)に追ひ往(ゆ)きましき。ここに殿の滕戸(さしと)より出で向へし時、伊邪那岐命(いざなぎのみこと)語りて詔(の)りたまはく、「愛しき我が汝妹(なにも)の命(みこと)、吾(あ)と汝(いまし)と作りし国、未だ作り竟(お)へず。かれ、還(かえ)るべ
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#0047 2010.8.9
祈りのメカニズム(6)
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古代中国の晋(紀元前1100年頃~紀元前378年)の時代、六卿の一人であった中行文子の国がまさに滅びようとしていました。そこで祭祀長を呼びつけ、「君が毎日我国の繁栄を祈祷(きとう)しているのに、なぜこんなことになってしまったのか。神への供え物が足りないのか、それとも君の祈祷が悪いのか」と大いに責めました。そこで祭祀長が答えました。
「先君
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#0023 2010.3.31
この世界だけがすべてではない
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わたしたちが日常生活をおくっているこの世界を、やまとことばで「あらわよ(顕界)」といい、わたしたちの五感で感知できない異次元世界を「かくりよ(幽界)」といいます。そして宮地水位先生の『異境備忘録』に「幽界は八通りに別れたれども、またその八通りより数百の界に別れたり」とあるように、この幽界には、尊い神々の世界をはじめ、神の眷属(けんぞく)の世界
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