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#0082 2011.1.30
須佐之男命の罪の解除
 
 
「ここに八百万神共に議(はか)りて、速須佐之男命に千位(ちくら)の置戸(おきど)を負はせ、また髭(ひげ)を切り、手足の爪をも抜かしめて、神(かむ)やらひやらひき。」『古事記』

「すなはち天児屋命(あめのこやねのみこと)に、その解除(はらえ)の太諄辞(ふとのりとごと)を掌(し)らしめて宣(の)らしむ。」『日本書紀』

 「千位(ちくら)の置戸(おきど)」は、『日本書紀』では「千座(ちくら)の置戸(おきど)の祓具(はらえつもの)」となっており、つまりこれは、天照大御神が天石屋(あめのいわや)に隠れてこもることになった原因を作った須佐之男命を祓い清めるためのものであることがわかります。 #0076【須佐之男命の乱行】>>
 『大祓詞(おおはらえのことば)』に「天津菅曾(あまつすがそ)を本刈断(もとかりたち)末刈(すえかり)切りて八針(やはり)に取辟(とりさき)て」とあるのはこのことを指しており、後に人間界に伝えられて、祓い清めの神具である「祓い串」となったものと思われます。 

 また『大祓詞』では、この須佐之男命の乱行を「天津罪(あまつつみ)」と呼び、罪の起源であるとされていますが、「祓」には穢(けが)れを祓う「禊祓(みそぎはらえ)」と、罪を祓う「解除(みそぎはらえ)」があり、この時は須佐之男命の罪を解除するためのものと考えられます。しかしあまりにもその罪が重く、祓具だけでは解除することができないため、髭や爪などの神体にまで及んだものとうかがわれます。(「禊祓」と「解除」の違いを簡単にいえば、穢れを祓うのは「身を濯(そそ)ぐ」で、罪を祓うのは「身を削(そ)ぐ」ということになります。自らの労力や財を削いで世のために施すことは、自らが犯した罪の解除になります。)
 そしてこの罪の解除にあたり、天児屋命(あめのこやねのみこと)が中心となって解除の太諄辞(ふとのりとごと、太祝詞事)を奏上し、祓戸神(はらえどのかみ)に祈念したことが『日本書紀』に伝えられています。 #0060【禊ぎ祓えの神術】>> #0061【祓戸四柱神の誕生】>>
(フトノリトゴトについては前述したとおりです。 #0080【神楽の起源】>> )

 「神やらひ」は「神遣ひ」ですので、追放したというよりは、ある神量(かむはかり)によって遣(つか)わせたという意味で、 #0070【須佐之男命による地軸の傾斜】>> つまりこの神事によって須佐之男命の天津罪のミソギハラエが完了し、新たな任務を遂行するため、再び地球に天降ることになったものと考えられます。

 須佐之男命も、はじめから罪を犯そうという考えはなく、知らず知らずの内に罪を犯すことになったわけですが、それでも罪は罪として贖(あがな)わなければならないという厳しい掟律と、その罪が解除された後は、もはやそれにはこだわらないという明朗な世界が神仙界であり、また、「罪を憎んでその者を憎まず」というような清らかさもうかがわれます。

 わたしたち人間も、悪意はなくても罪を犯していることは相当あるはずですが、祝詞の一節に「過(あやまち)犯すことの在らむをば、見直し聞き直し給ひて」とあるように、知らず知らずの内に犯している罪、咎(とが)、穢れを「祓へ給へ清め給へ」と祓戸神に祈念する神事が、今も日本の神道で行われています。 #0018【「はらひきよめ」という日本文化】>>
 とくに六月晦日及び十二月晦日に宮中をはじめ日本全国の神社で斎行される「大祓祭」は、自分や家族のことだけではなく、また日本国のためだけでもなく、すべての地球人類の罪、咎、穢れを祓い清める神祭として今も続けられています。

 犯した悪事を懺悔することも必要なことですが、知らず知らずの内に犯している罪はもっと深刻です。なぜなら当の本人が全く気づいていないわけですから、恐らく同じような罪を何度も繰り返すはずです。そうなると、また同じように禍事(まがこと)も繰り返し起こるわけで、永遠に悪循環から逃れることはできません。「自分は悪くない、悪いのは他人」という考え方は捨てて自分を見直し聞き直し、また神にも「過(あやまち)犯すことの在らむをば、見直し聞き直し給へ」と祈り、禍事(災難)が起こった時には「こうなったのは自分にも責任があるのでは?」と謙虚な心を忘れないことが幸福への近道だと思われます。 #0041【祈りのメカニズム(2)】>> #0047【祈りのメカニズム(6)】>>
 
 
 
清風道人
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