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#00815 2023.1.4
天地組織之原理(56) -筑紫の日向の橘の小門の阿波岐原-
 
 
「故(かれ)、その伊邪那美命、号(なづ)けて黄泉津(よもつ)大神と謂(まお)す。亦その追ひしきしによりて道敷(ちしきの)大神と号(なづ)くとも云へり。亦その黄泉坂に塞(さや)りし石(いわ)は道反(ちがえしの)大神と号(なづ)け、亦塞り坐す黄泉戸(よみどの)大神と謂(まお)す。」

 この本文の意はよく聞こえたる通りにて、この時に伊邪那美命を黄泉津大神と云ひ又道敷大神とも云ふは伊邪那美命の常に負ひ坐せる御名には非ず、この所にて伊邪那岐命に御別れ遊ばされし時に、両神共に長く顕国と黄泉国との境を守り給ふ御魂(みたま)の止まり給ふ御名なり。
 又次に「道反大神」とあるも石を大神と云ふに非ず、伊邪那岐命の御魂のこの石に止まり給ふ上の御名なり。「塞り坐す黄泉戸大神」と云ふも同じく伊邪那岐命の御魂のこの境を守り給ふ上の御名にて、男神の魂はこの境の上国(うわつくに)の方に属し給ひ、女神の魂はこの境の地下の幽府に属し給ふなり。 #0813【天地組織之原理(54) -女神の御深意-】>>

 この時に黄泉国より来(きた)る禍物(まがもの)に「この境より此方(こちら)に来る勿(なか)れ」と詔(の)り給ひて、御杖を衝き立て給ひしによりて成り給ふ神を衝立岐神(つきたつくなとのかみ)と申すなり。
 この神は『古事記』には、この次に御身に着けるものを悉(ことごと)く投げ棄て給ふによりて成り坐せる神の始めに挙げられたれども、平田先哲の説の如く上国と黄泉国との境にあるべき理(ことわり)なれば、この神は『日本書紀』伝の如くこの所にて成り坐せる神とすべきなり。

 然れば御杖は投げ棄て給ふには非ずして、御名の通りこの境に衝き立て給ふにもあるべし。然るに本伝には次の御身に着けるものを悉く投げ棄て給ふ所に混じて挙げられたるより、「投棄」と云ふことに伝はりたるものゝ如し。この神の御名を以てその誤りを正すも可ならん。
 道饗祭(みちあえのまつり)の神は前の四柱の御魂を合せて八衛彦神(やちまたひこのかみ)・八衛姫神と称し奉り、これに岐神(ちまたのかみ)を添へて祭るなり。所謂(いわゆる)塞神(さえのかみ)と云ふはこれなり。

 さて『古事記』にこの時までは伊邪那岐・伊邪那美命を「大神」と称し奉りしこと無きに、この時より「大神」と云ふ御名の見ゆるは理あることなるべし。
 参考の為申せば、この時までは二柱共並び坐して造化の御大業を成し給へるを、この時よりは伊邪那岐命は顕に属し給ひ、伊邪那美命は幽に属して常にその魂のみ男神に添ひ給ひて造化の御神業を掌り給ふ事となり、一先ず体生の御神業の功を終り給へるによりて、両大神共この時より後は専ら御魂の上の御神業なればかく伝へ来りたるにもあるべし。

「こゝを以て伊邪那岐大神、吾(あ)は伊那志許米志許米岐(いなしこめしこめき)穢(きたな)き国に到りて在りけり。故(かれ)、吾は御身の禊為すさむと詔りたまひて、筑紫の日向(ひむか)の橘の小門(おど)の阿波岐原に到り坐して禊ぎ祓ひたまひき。」

 さてこの伝は伊邪那岐大神、彼(か)の黄泉国より還り給ひて禊ぎ祓ひ給はんと阿波岐原に至り給ふ伝へにして、語解を加えずともよく明文に聞こえたる通りなり。その内に「伊那志許米志許米岐」と云ふは今にても何か目に立ちたる形をなすを「何めく」とか云ふ如きことなり。
 「伊那」と云ふは「否む」ことにて又「いやらしひ」と云ふ意あり。「志許米」は「醜女」の字意にて見苦しき女と云ふことなり。こゝは「その物等の居る穢国に至りてありしことぞ」と悔ひ給ひて詔り給ふなり。故に大御身の穢れを禊ぎ祓ひ給はんと筑紫の日向の橘の小門の阿波岐原に至り給ふとなり。 #0198【清明伝(1) -災いは穢れから-】>>

 こゝに「筑紫の日向」とあるは全く後世の竄入(ざんにゅう)にして除くべきは、神代第一期の末に国名を講じたる所に弁じ置きたるが如く、「筑紫」「日向」と云ふは何れも神代には無き名にして、彼の命盡しの神と云ふ古事と景行天皇の御代に初めて日向とは名付け給ひしなり。 #0790【天地組織之原理(31) -八島-】>> #0791【天地組織之原理(32) -六島-】>>
 それのみならず総て神代にはその所を語り伝ふるは一地方の地名のみを以て伝へたる例なるに、国郡村名の上に大字(おおあざ)小字と云ふ如きは共に後世人為の加はりたるものと知るべきなり。故に余が一家の講究にてはこの所の「筑紫」「日向」とあるは採らず、単に「橘の小門の阿波岐原」と云ふのみを採れるなり。
 この古跡は種々の説も多くあれども、その古跡を挙げて論ずるはこの講述の旨意(しい)に非ざれば、考証学家の説によりて知らるべし。貝原篤信(益軒)翁は筑前国ならんと云はれたり。余もこの筑前国志摩郡大門と云ふ所には至りて見たることあり、玄海の湖にしてその潮水の清きこと他に無比の所なり。「筑紫」「日向」と云ふ後世の竄入を除きて見る時は故あることならんか。
 
 
 
清風道人
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 これは明治の謫仙(たくせん)宮地水位先生の手記の一
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