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#00605 2019.7.23
生類の霊異(38) -外道(解説)-
 
 
 外道(げどう)なるものは動物にして、自己を愛養する家には福利を与へ、自己の好まざる人には病気を与へ、或は物資の損害行為を投ずるなど、一種の妖魔的能力を有するものゝ総称で、東海道、又は関東に云ふクダ狐、尾サキ狐(石見ではこれを犬神と云ひ、出雲伯耆にて人狐と称するは、この小型の狐の一種である)、大阪地方の豆狸、中国九州方面の妖蛇群のトウビョウ、中国地方にある蛭神、四国地方や山陽道の西部の犬神などであるが、これ等を一々記述するに於ては分量多大で浩澣(こうかん)なる書を為さねばすまぬから、本書にては著者(岡田建文大人)の郷里たる山陰道西部の外道だけを記載するに止めたが、それでも一般の外道の習性は略(ほぼ)判明することゝ信ずる。

 山陰道の出雲石見には、小型の妖狐の宿ると称せられた家が他国の外道持ちの数より遥かに多く、社交上の妨害の度も濃密で困る人が多いので、迷信打破家が明治中葉頃から大に骨を折って、地方人を啓発させようと努力をしたけれど、割合に成績の挙らぬのは外道の事蹟が顕著なからであるが、その雲石(うんせき)人の言ふ外道なるものを、地方の動物学の教師輩は鼬(いたち)の一種だと言って居る。
 如何にも外貌や体躯の大さや毛色は鼬ソックリである。然れども仔細に視ると鼬ではなく狐である。

 この妖獣の特徴は耳タブが二重になって居り、四肢の爪が十本ずつあることで、口吻(くちさき)の尖り様が狐の口吻の如く、又眼も鼬よりも狐に似て居ることや、鼬が概して孤独生活をするのに、この物は群棲生活を好み、同類間の友情が非常に厚いことや、鼬は犬や人に捕獲される時に臭屁を放つに、これは殆どこれを放ったと云ふことを聞かぬ。
 次に又、鼬は人に慣れないのにこの物は甚だ人に馴れ易く、人語を解すること犬猫以上で、邪智に富んで居る点は野狐に異ならぬ。 #0583【生類の霊異(16) -狐(人語を解す事例)-】>> #0599【生類の霊異(32) -狸及び貉(人語を為す事例)-】>>

 俗称に「一家七十五疋」と云ふも、その様に多くは居ない。大抵数疋乃至(ないし)十疋位の程度であるが、その住む家の人にして偶々(たまたま)には無知覚であったり、又住んで居ないでも外道持ちとして有名な家があり、その類の人は自家の名誉上、非常に外道の迷信を呼号するのであるけれど、その家族の内に誰かゞ他家の人に対して所謂(いわゆる)外道の怪異を投与するものがある。
 この点から見ると外道の本源は人に在って獣でなく、唯獣は外道の邪力あるものゝ家に寄生するだけであるかとも想はれるが、一方には又現に獣の妖邪の力の顕著なものがあると云ふ事実もある。

 これに依って見ると、世の外道持ちなる家の外道には人と獣との二種があることが判る。人にあるのは一種の遺伝性の精神能力者で病的悪癖とも言へるが、この種の外道は甚だ稀である。
 獣の外道が居ても、他人の目にかゝらぬ内はその家が富裕になる一方だけれど、他人の目にかゝり出すのは家の衰への始めだと云ふ。
 飼ひが悪くなるから出歩くのだとも言はれるが、さうばかりでも無さゝうだ。主家が没落でもして居所が無くなると、方々に離散して漂泊者になるか、追々には餓死したり、他獣に食はれたりして死滅する。この物は野生生活の力の全く欠乏した動物たることは疑ひが無い。

 著者が郷里に在りし時、白昼よく他家から来て庭先へ現れた。いつか醤油屋の小僧が著者方の横の濠(ほり)の小橋の際で、棒を投げつけて獲ったこともあったが、そいつは橋の下の穴から出て来たのだと云ふ。多分主家を失った浪人ものであったらう。家の無い漂泊ものは、最早人に憑く力も無くなって居る唯の憫れむべき小獣たるに過ぎないのだ。貧するや鈍するのは人間ばかりではない。
 外道を家から突放すには法がある。銭を藁包(わらづつみ)にして赤飯を添加して、祝ひ言を言って道端又は田畑などの辺(ほとり)へ棄てゝしまふのであるが、それを拾った人間が新しい主人になるのだ。

 又、この獣は主家に忠義なことは著しく、主家の人の恨み又は憤りをかける人には、直ちに駆け行ってこれに憑いて苦しめる力あるにも拘らず、自体に危害を加へる人には恐怖して畏縮する癖がある。これを以て見れば、この獣は侫媚(ねいび)にして全然小人的卑悋(ひりん)の邪獣であることが判る。
 又、この獣は人に対して隠身の方術を為す奇怪があるが、石見の東部では、箒(ほうき)を枕にして見ると外道の隠身の法が利かないと云ふ人もある。 #0600【生類の霊異(33) -狸及び貉(隠形の事例)-】>>

 又、この獣が徘徊して他人の目にかゝるやうになると、他所へ分封が始まるのだと云ふ説が一般に信じられて居る。
 又、この獣は実によく人語を解し、また人の性格に通じてゐる。嘗て出雲国簸川(ひかわ)郡中部にて有名な素封家(そほうか)にして外道持ちの家の庭で伊勢神楽が行はれた時、窓の格子に六、七疋の外道が居並んで、恰も人間のやるやうな表情ぶりで嬉々として神楽を見て居たと云ふことであった。

 石見国安濃郡川合村にも有名な外道持ちがあるが、近所の人がその外道持ちから畑物又は餅菓子の類を貰った時には、まず暫時(ざんじ)は貰物を台所の端に放置し、牡丹餅(ぼたもち)などは棚へ上げても蓋をズラして置く習慣がある。これは吝(おし)みのかゝった贈物である時に、外道が来てその一部分を持帰るに便利ならしめる為である。
 嘗て或る家は外道持ちから生大根数本を貰って戸口に置いたところ、その暮れ方に外道が来て、大根中の大なるものを一本、重げにして自家へ引摺りながら持帰るのが見られた。

 又、同郡常建寺下の農・屋号△△△も有名な外道持ちで、外道が年中自家の田畑を見廻るのが見られてゐた。嘗て近所の某少女が竹箒木を以て外道を逐ひ廻す時、主人が出て来て制止をしたが、その時外道は邸前の石垣の隙へもぐり込み、顔だけ出して容子を見てゐたと云ふが、その少女は不思議に外道に憑かれずに済んだ。
 又、その外道持ちの主人が居宅を増築するに方(あた)り、大工の来るのが遅いとて迎へに行った折りには、外道が先に立って行き、主人が大工を連れ帰る時には二人の間を愛犬の如くに駆け廻り、主人に「ヤイ邪魔臭い」と叱られたことを見た人もあった。
 
 
 
清風道人
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