日本古学アカデミー

#00726 2021.7.19
奇蹟の書(1) -序説-

 


(清風道人云、昭和十一年七月十八日に発行された『奇蹟の書』は、『動物界霊異誌』の著者でもある心霊学者・岡田建文(けんぶん)大人が「心霊不滅の実証」と副題された論稿で、以下はその序説です。 #0568【生類の霊異(1) -概略-】>> )

 米国で有名なイオン研究所たる「ウイルソン・エキスパンション・チェンバー」で蛙、バッタ、鼠等の小動物をエーテルで殺してから、特殊な化学光線の下で写真を撮って見たところ、予期以上のものが現像された。
 五十枚の乾版で十四枚に、小動物の屍体の胸部から霧でも立つやうにモヤモヤとして、動物の肉体そのまゝの姿をしたエーテル体が空中に向って脱(ぬ)け出るところが判然と撮影された。その気体こそ小動物の幽霊と謂ふの外ないものだ。 #0569【生類の霊異(2) -蟇(解説)-】>>

 尤もこの撮影が得られる上に於ては時期が大切であった。即ち死の瞬間を捕へねばならなかった。早過ぎても不可、後れても不可、エーテル体が屍体を脱離する折りを以てせねばならぬのだ。
 イオン研究所がどうして前記のやうな試験をやることになったかと云ふと、既にイオンの様な無限小の物質さへ発見されたからは、人間の見る空間には官能に感じないで、しかも実在する微妙な物質があるだらうといふ想定の下に行ったことであった(今から三年前の事実)。

 また我神戸市熊内町の歯科医・大関兼記氏方で、飼鳥のセキセイインコが或る日突然、彼の未知な人語で数年前死去した同家の令嬢・朝子の消息を伝へ、次の日からは朝子嬢生前の語調で両親たちと会話をするやうになった。セキセイインコが人語の出来る鳥であるところから、死者の心霊が憑依して為させる現象であるのだと認めねばならなかった。
 またそのインコはキャラメルが食べたいの、鮓(すし)が食べたいのと、恰度(ちょうど)朝子嬢の生前の嗜好物であったものを種々と需(もと)めだし、同家の人々は鳥の体には毒になるではないかとの心配はありながら、亡女に食べさせる気持で鳥の需める様々な食物を与へてやったが、果して鳥は胃腸を損(こ)はして死んだ。
 然るに同家では又一羽のインコを飼ふてみると、それが又以前の鳥と同じやうに朝子嬢を現して高評となり、昭和九年の夏、大関氏は遂にそのインコを携へて上京し、華族会館で有志者を会合して亡女の話声を公開した事実もあったが、その鳥も前のと同じく食物のために死亡した。三代目のインコもまた同様、目今は四代目のインコであるが、依然として朝子嬢の話声を止めぬ。

 死後の生命といふものは、唯吾々人間のみのことではなく、動物にも見られる事実だといふことは、既に心霊学者の肯定して疑ひなきことであるが、不幸にも我国現代人の大多数は形而下科学に捉はれの身となり切り、脳髄そのものを心意体と即断し、生命なるものを肉体の活動期間のものと観じ、死後の心霊世界だの、人間に超越した大智能者たる神だのといふことを、迷信の産物だと嘲罵(ちょうば)し去るのを快としてゐる。
 そしてその人たちの盛り立てた文化なるものが、どんな世相を為(つく)ってゐるかは説明をするまでもないことで、すべてが偽善偽知で全人類の前途は暗澹(あんたん)を極めてゐる。もちろん既成宗教も霊の実相に通暁(つうぎょう)せず、殊にその核心なるものは畢竟(ひっきょう)一片の思想遊戯に過ぎないから、現実主義の現代人を教へるには余りにかけ離れのした無権威物である。

 肉体後の生命の実在が心霊科学によって証明されるやうになってから、人間より遥かに優れた生命が宇宙に存在することに観念が植付けられたのも、自然の帰趨(きすう)たるものだ。人間より優れた生命、それは実に「神」なるものである。
 最近欧州の心霊派が神秘主義なるものを生んだのは、実に悦ばしいことだ。人間の真の文化的向上は、天地の神律を知り、神の徒となって、生命の極致を体得するのにある。欧州の神秘主義者は、過去の唯物科学に迷信した人類の罪科の賠償に向って今や猛運動を起こしつゝあるが、我国では指導階級の人々に一人だも心霊主義者乃至(ないし)は神秘主義者が見られない。偶々(たまたま)その仮声を使ふ者はあっても、自家を利する邪心の徒たるに過ぎない。

 肉体後の生命を説くのは人間道の第一教科書であらねばならぬが、世界各国の文教を司るもので一つもその事がない。また死後の世界は宗教毎に民族毎に境地を異にするものたることも、一般の心霊主義者が知らぬのも嘆かはしい。
 要するに、人間は死後に支配霊(主神の命ずる権威者)によって生前の功罪を厳正に審判され、最も憎むべく且つ改悛の見込みなき劣悪な心霊は魂(たま)消しに遭ひ、善直なものは霊界進化の方式によって向上の途を辿り、最後には神の世界に接近し、無限の生命を味ふことが出来る。これは吾等の仮説ではない、神霊の厳たる垂教に拠るところの記述である。

 こゝに一個の挿話を添付する。明治中葉に無神論哲学を鼓吹し、肺病に臥しながら『続一年有半』の一書を著し、洛陽の紙價(しか)を高めたと云はれた中江兆民居士(こじ)も、その病篤くなり愈々死期の来り迫るや、懊悩(おうのう)の苦に堪へられなくなり、時の名僧・雲照を枕頭に請(しょう)じてその説教を聴き、無理に心の慰藉(いしゃ)を得んとして焦慮し、その臨終ぶりは平常の無神論者に似合はぬ憫状(びんじょう)さを呈した。
 また先年巨船タイタニックが大西洋で氷塊に衝かれて沈没するとき、甲板は生を争ふ数百人の乗客でゴッタ返しの状態を呈した。その折り英国の知名の文士のステッド一人は超然安然、まことに落ち付き払った態度で、狼狽(うろた)ひ騒ぐ乗客を助けて救命艇へ乗らしめることに努力し、最後に自身は笑顔を共に船と一緒に沈没して溺死したと云ふ。
 この人は心霊の不滅を信じてゐたから、大難に臨んでもこの大義侠的な善徳が出来たのだ。筆で空威張りをした無神無霊魂主義者の兆民居士の臨終に比し、如何にステッドの人間らしかったことよと賞したい。 #0647【悠久不死の玄道(1) -人生の疑問-】>> #0648【悠久不死の玄道(2) -生死の神秘-】>> #0649【悠久不死の玄道(3) -霊魂の行方-】>> #0650【悠久不死の玄道(4) -上士は一決して一切了る-】>>

清風道人

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