日本古学アカデミー

#00647 2020.4.1
悠久不死の玄道(1) -人生の疑問-

 


(清風道人云、この「悠久不死の玄道」は、宮地神仙道道統第四代・清水宗徳先生(道号・南岳)が、「生死の神秘を究めて」「神仙道は造化司命の神教」と副題されて昭和二十八年四月三十日付の広報誌上に掲載された著述です。 #0382【水位先生の門流(4) -道統第四代・南岳先生-】>> )

 人は疑問の中に生れ疑問の中に死す。まず「何故に生まれたるか」が一の疑問なり。「生存中に何を為すべきや」が二の疑問なり。「死すれば何の境に入るや」が三の疑問なり。この疑問を解釈するを「人生観」といふ。
 これは儒学の祖と称される孔子が『天人論』の冒頭に提示した有名な人生観の定義である。凡そ生きとし生けるものゝ限りは、その深浅と高下の差こそあれこの三大疑問を抱かざる者は無いであらう。

 世には確固たる人生観といふほどの自覚もなく、たゞ何となく漫然と本能的、打算的に生きてゐるに過ぎないといった種類の人が随分と多い様であるが、試みるにこの三大疑問を以てせんか、彼は忽ち当惑し、沈黙し、長考し、痛嘆して、我も又折角生まれ出た以上は成らうことならば何とかして意義ある人生を送りたいといふ神性の仄(ほの)めきを洩らすであらう。
 判然とそれとは意識せずとも、人は常に知らず知らずのうちに人生に対する疑問を抱き、しかも時に触れ縁に触れてその迷ひより解脱して本然(ほんねん)の性命に帰一せんとする神性を発露するに至るのである。

 人は皆それぞれ自らの人生観に基いて生きてゆく。随ってその人の生き方や在り方は、その人の抱く人生観の如何(いかん)によって左右される。そこで当面最大の問題は、最も正しい真の人生観とは果たして如何といふことになって来る。
 何とならば、真に意義ある人生を送るといふことは、最も正真と信ずる人生観に立った生き方をするといふことであるからである。人生とは何ぞや、人生竟(つい)に如何、この解釈を追って真に正しく納得のゆく人生観を解決せんとするには、まず人生の根底に横たはる幾多の疑問を解明せねばならぬ。

 前に『天人論』を引いて提示した人生の三大疑問も、第一の疑問たる生と第三の疑問たる死の問題が解明されゝば、第二の疑問たる生存中何を為すべきやの課題は自ずからに解決されて来る。第二の疑問といふは、実は疑問に非ずして課題である。人生の根底に横たはってゐる生死の問題を解明せずしては到底解決し得べからざる課題である。
 生死といふ根本の疑問が割り切れてゐなければ、人生何を為すべきやの課題は決して割り切れない筈である。されば人生観とは即ち生死観なりと換言するも過言ではなく、生死観を離れて真の人生観なるものは成り立たないのである。

 儒聖と謂はれた孔子が弟子の子路(しろ)から死を問はれた。それに対して孔子が答へた有名な語がある。「未だ生を知らず、焉(いずくん)ぞ死を知らんや」といふのである。「未だに生といふことが判ってゐないのに、どうして死後のことなどが判ろうか」といふのである。
 儒学ではこの孔子の答弁を子路に対する応病施薬的説法と弁護してゐるやうであるが、大聖と称せられる孔子にしてかくの如く浅薄(せんぱく)にして愚劣極まる地上最大の逃避と詭弁の記録を遺したことを、夫子(ふうし)自身の為に悲しむものである。

 それといふのも、儒門では何かと謂へばすぐに「天」を引き合ひに出すが、その「天」の真義を把握してゐないところから人生観の根本たる生死観があやふやとなるのである。否、儒門に限らず、その角度と方式こそ異なれ、古今の教学も既成宗教も、哲学も科学も政治道徳も、その最高最奥最大の課題としてこの人天の疑問を解決すべくその全力を集注しつゝあるのであるが、造化司命の神秘に直指せざる限り人類永遠の疑問として謎の「開かずの扉」を遠望するに止まるであらう。

 思ふに我は自ら生れんと欲して生れ出たるものではなかった。我自ら父母を選択するの自由もなく、またその生家及び環境を選ぶ自由も与へられずして我が人生の出発点に立たされてゐた。「我思ふ、故に我あり」と自覚した時には、その好むと好まざるに関わらず宿命を荷った人生の第一歩を踏み出してゐいたのである。「何故に生まれたるか」の第一の疑問に係るところである。

 神仙道はこれ等人生の根本に横たはる幾多の疑問に就て端的に造化司命の天窓を穿ってその「開かずの扉」を開いて宇宙深秘の実相を知らしめんとするものである。何とならば、神仙道はその名称するところの如く、実在する神仙より伝はりたる道であり、凡そ生きとし生ける地上生類を始め顕幽両界の万霊万魂の出自進退集散を司命する神仙直流の教へであるからである。 #0322【『異境備忘録』の研究(7) -宇内の大評定-】>>

清風道人

カテゴリ:悠久不死の玄道
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