日本古学アカデミー

#00374 2015.9.13
『異境備忘録』の研究(59) -運気の盛衰-

 


「神仙より罰を受くるに至りては、二夜も必ず血の雨の降りて身にかゝる夢を見るなり。この時は第一に慢心を慎み、酒を一盞(いっさん、一杯)も飲むべからず。よく言語を少なくして我が身を清浄にし、怠惰の心起こらんとするを一命に替ても勤めて怠らず、神祇に謝罪を祈りて祭典を厚く行ふべし。
 如此(かくのごとく)せざれば、酔に乗じて人に無礼をして容易ならざる失言を吐き、戯言(ざれごと)を誠らしく語りて忽(たちま)ち現れ、善人を罵り、人の非を暴き、終(つい)に如何(いかん)ともすべからざる大事を仕出かし、財産を削り、身を誤り、己を悔い、俄(にわか)に天に祈れども及び難きに至る。もしこの夢を見たる者は、右の祭典謹慎の事を怠るべからず。これ神祇より罰を蒙るの数多(あまた)ある中の一つなり。」『異境備忘録』

 人は善人といえども知らず知らずの内に罪を犯してしまうものですが、大罪を犯すに至るまでに必ずその兆しが言動に現れますので、こうした時こそ謙虚に我が身を振り返り、河野至道大人が指摘された「悪に志す者」に該当していないかを再確認し、また潔斎して神祭を斎行し、『大祓詞』及び『神仙感応経』を繰り返し奏上して罪過の解除を祈念申し上げるべきでしょう。 #0270【『幽界物語』の研究(40) -現界の罪-】>> #0341【『異境備忘録』の研究(26) -神仙感応経-】>>

「天線とて天より貴賤上下を論ぜず家々に垂れたる気あり。その気の盛衰によりて家の盛衰の見えて知らるゝなり。この気を現世にて見知りたるは巨勢武内宿禰、九郎判官源義経、平良門、空海、松木春彦、安倍晴明なり。この気は山人の界にては気線と称し、支那の仙界にては天足(てんそく)と称して、これは容易に凡夫の窺ひ難きものなり。 #0347【『異境備忘録』の研究(32) -山人界-】>> #0356【『異境備忘録』の研究(41) -支那仙界-】>>
 この気、昼夜によりてその色異なり、盛運の時は大にして金色の点交じり、盛烈にして棟上より起こりて漸々(ようよう)に大なり。衰運の気は黒点と水気の如くなる気と打ち交じり、下大にして漸々空に及ぶに随ひて小さく、その末遂に消滅して見えず。
 この気を窺ふは日の出る前と日の暮るゝ時、曇りたる日、又月夜等は上の上なり。その見る法を以て行ふ時は見ゆるものなり。これを空より見る時は網の目を見るが如し。盛運の気登りたる家には、空より見る時は三つの玉の如くして、美(うる)はしき瑞気と見え、衰運の気の上末には消えかゝりたる所に、裸体にて黄褌(ふんどし)をして手足爪長く髪茶色なる餓鬼の形なるものゝいくらともなく跳(おど)りたる形の見ゆるもあり、黒色の形にて眼水色にて光るものゝ采配(さいはい)を持ちて打ち振る状(さま)の見ゆるもありて、玉の見ゆる家には思はずして益々富栄となり、異形のものゝ見ゆる家には貧にして大損を来すばかりにして、夫婦争論口舌止む時なく、遂に産を失ふもあり、骨肉散々に離別するもあり。
 この気を知らぬ輩は家の軒を見るべし。家の軒の荒れて、つやなきは衰運にして、家内暗く汚衣汚物家内に散り乱れて自然と家人怠惰の心起こり、家事多く脆(あやう)き病人絶えず。又、家の軒美はしくして光潤あり、家内明るく清浄にして家人病なきは、これ盛運の兆(きざし)と知るべし。」『異境備忘録』

 日本古学の一霊四魂説によれば、家屋だけでなく人間にも「大直霊(おおなおひ)」(古言で「魂之緒(たまのお)」)と呼ばれる霊光線が下っており、その盛衰が人の運命に大きく関係することが伝えられています。 #0038【一霊四魂】>> #0217【神道宇宙観略説(8) -人霊人魂について-】>>

「神経病とて諸事の心にかゝり、その妄念より異形の者の眼前に浮かび、目を閉じても見え、諸々の異声を聞き、終には狂乱病を発して種々の雑言を吐き等する類は、邪気の血に入りて妄想を引き起こしたるものにて、邪気を去り妄想を退くる事はその法あれども容易に行ひ難し。然(しか)れども発病の始めなれば平癒せしむる奇術あるなり。」『異境備忘録』

 「その法あれども容易に行ひ難し。然れども発病の始めなれば平癒せしむる奇術あるなり」とあるように、こうした神法道術による恩恵を被るのも神縁のしからしむるところであり、その人物の霊格や徳分に応じて幽助が施されるのですが、ただし神法道術の効験にも限界があることは前述した通りです。 #0244【『幽界物語』の研究(14) -神法道術-】>> #0368【『異境備忘録』の研究(53) -神法道術の限界-】>>
 さて、清濁混交する地界で生活を営む以上、人間が悪因縁を結び成すことは不可避であり、また前世或いは先祖の因縁による禍事もあれば、地上生活の宿命ともいうべき星気の相克による凶運も受けざるを得ないのですが、奉道の士は自らの使命を全うして定期(天寿)を迎え、目出度く仙果を結んで新たな幽真生活に遷るべく、日々清祓に努め、怠ることなく神祭を行ってその悪影響を最小限に止めるべきでしょう。 #0263【『幽界物語』の研究(33) -寿命について-】>> #0264【『幽界物語』の研究(34) -前世の因縁-】>> #0271【『幽界物語』の研究(41) -穢れを忌む-】>> #0324【『異境備忘録』の研究(9) -長生不死の道-】>> #0326【『異境備忘録』の研究(11) -「運命」の正体-】>>

清風道人

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