日本古学アカデミー

#0030 2010.5.10
天地万物造化のはじまり

 


「天地(あめつち)初めて発(ひら)けし時、高天原(たかまのはら)に成りませる神の名(みな)は、天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)、次に高御産巣日神(たかみむすびのかみ)、次に神産巣日神(かみむすびのかみ)。この三柱(みはしら)の神は、みな独神(ひとりがみ)成りまして、隠身(かくりみ)なり。」『古事記』

 さて、天之御中主神 #0029【造化大元霊】>> の次に「高御産巣日神、神産巣日神」とありますが、『日本書紀』では「高皇産霊神、神皇産霊神」という漢字が当てられており、こちらの方がよく意味を表しています(やまとことばの意味を正確に伝えるように漢字を当てることは非常に困難な作業であることが推量されますが、『古事記』を補う目的で、『日本書記』ではあえて『古事記』とは別の漢字を当てていることが多く見られます)。
 
 まずタカミムスビのタカは、竹(タケ)のように丈(タケ)が高く立ちのびるという意味があり、ものを張り出す膨張力のことで、男女でいえば男性的な徳(はたらき)を表しています。これに対してカミムスビのカミは、噛む、噛み締めるという意味で、カムと次の尊称の皇(ミ)が約(つづ)まってカミとなっており、男徳で膨張力を表すタカに対して、女徳である縮引力を表しています。ムスビ(産霊)は前述したように、宇宙間に散在する素粒子を結び成すことですので、 #0004【わたしたちの生命は太陽と同質?】>> つまり、高皇産霊神、神皇産霊神とは、天之御中主神の宇宙を開闢(かいびゃく)しようとする意思がはじめて動いた(霊動が起こった)時、宇宙間に万物を造化(生成化育)するために、その大元霊より分離して独立した存在(分霊)で、膨張という男徳と縮引という女徳をそなえた二柱の神ということになります。

 あえて人間的三次元的にこの二神の神徳をイメージするならば、タカミムスビの神力は外に向かう螺旋状の渦巻きで、中心から右旋しつつ外に向かい、また中心から左旋しつつ外へ向かうエネルギーを有するものであり、逆にカミムスビの神力は中心へ向かって右旋しつつ、なおかつ中心へ向かって左旋するエネルギーを有するものということになります。そしてこの二つの活発な流動が調和して安定することにより球状の立体物が形成されますが、宇宙の星々が連なる巨大な星雲から原子の世界まで、この原理は同じです。「万物は流転する」という言葉は、まさしく宇宙の実相を表したものといえるでしょう。 #0028【霊・気・質の関係】>> また、生命の誕生についてもこの螺旋運動の原理が存在しますが、話が長くなるため、改めて後述したいと思います。
 

 紀元前3000年頃の古代中国に、伏義(ふっき)氏(日本の大国主神の分霊)と呼ばれる神が伝えたとされる「陰陽説」によると、すべての森羅万象は「陰陽」という、相対する形(時空、善悪、昼夜、前後、左右、男女など)で成り立っているとされていますが、この二柱の皇産霊神(みむすびのかみ)の出現は、まさに陰陽のはじまりを表しています。また、この後に次々と八百万(やおよろず)の神が成り出ることになりますが、この陰陽二柱の神が、大元霊の分霊(わけみたま)として成り出たはじめての神霊といえるでしょう。このあたりについては、宮地水位先生が次のように記されています。

「天地万物未(いま)だ形象あらざりし時は、風となり、火となり、水となり、金となるべき物質が、大虚空中にありしけれども、微細にして肉眼で見る能(あた)はざる(不可能)なり。しかるを、元気(根元の気)の太祖、天之御中主神及び皇産霊二神の造化の神業によりて、彼(か)の散満したるものを結び給ひてより、日月国土をはじめ、五元及び森羅万象を出現せしを以(もっ)て、肉眼に見るを得。」 #0002【森羅万象を説く「五元」の説】>>
「天地未だあらざるの初め、空中より一点真精の元気、流動して二元素となり、分かれて五元素となり、散じて七十有余の元素と分離して宇宙に瀰漫(びまん)し、漸々(やや)に凝結して造化の状(さま)を見(あらわ)せり。」

 また、日本の古言に「天(あめ)のはじめ、一つの霊(みたま)の、二つの陰陽(めを)の霊(みたま)と分かれ、五つの気(いき)の、風の共(むた)、あらくるを編み成し、産(む)し凝らし固め、火気(ほのけ)水気(みずのけ)も漸々(やや)に分かれ(後略)」とあるのも、天地万物造化の実相を伝えたものと思われます。

 上掲の『古事記』本文の最後に、「この三柱の神は、みな独神成りまして、隠身なり」とありますが、この三柱の神は「造化三神(ぞうかさんしん)」と呼ばれ、他の八百万の神々とは別格の存在で、人間はもちろんのこと、他の神々からも見えないという意味で隠身(かくりみ)となっています。また別の神典では、この造化三神が鎮まる幽府を「別天」と呼んでいますが、道教でいう「大極」、あるいは仏教でいうところの「真如」がこれに相当すると思われ、他の幽府とは別の「幽界中の本府」とされています。

 また、古代中国では高皇産霊神のことを「元始天尊(げんしてんそん)」「盤古真王(ばんこしんのう)」、神皇産霊神のことを「大元玉女(たいげんぎょくじょ)」「大元聖母(たいげんせいぼ)」と呼びましたが、古代インドでは、高皇産霊神は「伊遮那天(いしゃなてん)」「大梵自在天(だいぼんじざいてん)」、神皇産霊神は「毘摩羅天(びまらてん)」と呼ばれています。

清風道人

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