日本古学アカデミー

#00741 2021.10.17
奇蹟の書(16) -近代交霊術の起源-

 


 近代交霊術は西洋に興ったのであるが、それは現界の人間の発案ではなく、冥界の霊の発案したものである。一八四〇年、北米合衆国のハイドウェル州のフォックス家に打叩(ラップ)が起こって、その家の少女が初めてこれを知覚し、それから冥界の通信手との意思の交通が開かれたのである。

 打叩の音の数でアルファベットの字順を約束して対話を行ったことから始まり、遂にテーブルを動かしたり、楽器を鳴らしたり、光球や幽霊姿を現し、また自動的な霊感筆記や肉体の空中浮揚といったやうな超理学的なことなどが各地の交霊会で演出され、同時に能力の多い霊媒があちこちに現れ出るやうになったのだ。

(フォッスク家の二人の少女は後年に至って霊が憑かなくなったが、従来の名声を維持するために欺瞞の方法を用ゐて打叩を企てたことがバレて信用を失ったのみならず、反対派に良き口実を与へ、世の交霊術は悉く詐術だと断言する科学者に迎へられた。霊が人界に交通を開かうと企てたことは、フォックス家の打叩よりも数十年前にメソジスト教会の開祖ジョン・ウェスレーの宅にて現れてゐた。またその頃、有名なスウェーデン・ボルグも霊告なるものを世に伝へた。)

 交霊現象を科学者として研究した最初の功名者は、英国の電気学者であったウィリアム・クルークスで、一八七〇年に二、三の同志と研究協会を組織し、四年目に霊媒フローレンス・クック女史を得てから、物質生成の現象に就て前人未発の研究に成功した。
 しかし厳密に云へば、霊科学が確実に成立したのはSPRの略号を以て有名となったロンドンの心霊研究協会の創立から後の事である。

 博士ワルレス氏は賛美の詞を放って言った。「交霊術が死者の生命の存在を証明するに一点の疑ひを挟ましめざる証拠を提供したのは、人類の幸福に最大の殿堂を寄与したものだ。(中略)余(よ)の知れる牧師は最愛の一子を失って悲哀に沈み切ってゐたが、偶々(たまたま)霊魂現象を目撃して自分はもう快活になった。児は永遠の生命を抱いて居るに違ひない。自分は以前と変った人間となったと叫んだ」云々。
 ワルレスの言の如く、人生に無限の慰安と光明とが投じられた訳で、一旦消えかゝってゐた宗教もその為に油を注がれたことになった。

 しかし物質学者はその固守する牢乎(ろうこ)たる唯物万能の思想から、すべての神秘現象を排斥するに腐心し、終に交霊現象を以て生者の心霊力だと云ふことの出来るやうに、種々の学術的熟語の製造に着手をし、而してかなり彼等の成功を捉へ得た。
 けれどもその成功なるや、霊魂派には毫(ごう)も打撃を与へることはなく、むしろ一層これを激励して、却って反霊魂派の領域をこぎ取らしめる結果を生ぜしめた。

 反霊派は、霊媒の現出する心霊現象は、霊媒の潜在意識がその席に列してゐる人の顕現意識または潜在意識を手繰(たぐ)り出して巧みに脚色した芝居であるか、或は故意に生ぜしめた偽騙(ぎへん)術だと主張し、また都合よくその主張を証明するが如き事項も往々あったので、当初は霊媒及び交霊術なるものは中々不信用であった。

 しかしまた、追々確証の動かし難きものが現れて、始めは大に疑ひを挟んで集まった斯道(しどう)の大家連が、長い間反復丁寧に厳重な監査を加へて実験をした結果、遂にその疑念を悉く放棄せざるを得なくなったのが甚だ多い。
 それ等の学者(科学者)で、マイヤーズ、ホッジソン、オリヴァー・ロッジ、ロム・ブローゾ、ジェームスなどは、最初からの霊魂学者以上の熱心と実験とを以て各自に世人の物質迷酔を覚まさせようと努力した。

 誰人(たれびと)も初めて交霊会に隣席するときに必ず第一に思ひつく問題は、詐欺か虚妄かと云ふ点である。しかし現象に接触すると、その瞬間にあらゆる疑惑は跡形も無く消え去ってしまふであらう。
 イタリアのネーブルス大学の生理学の実験室で、ユーサピア女史の交霊術が試験に供せられたときに、立会の各学者は霊媒なるものゝ行ふ偽騙術を看破するの精神に燃えつゝあった。然るに実験室の空間から、バラバラになった肢体、蒼白な透明な触覚し得る手が不意に現出し、而してその手の接触を記録する為に特別に装置された巧緻なる機械に作用したとき、就中(なかんずく)霊媒の背後の幕の間から黒い顔の半面が現れて、数秒間各人の眼に見えた折りには、何事も覚悟はして居ながら、彼等学者の群が思はず発した驚愕の叫び声に自ら驚いて、「如何にも見えた、引込んだときに自分は全身に戦慄を感じた」と言ったのは、生理学会長ボツタツヽイ教授の告白であった。

 霊界に蟠(わだかま)る神秘の扉が、交霊術の鍵によって開かれることを悟った科学者が唯の一人でもあれば、千百の反対の科学者の罪までも撫で消されることになる。霊魂問題は数の問題でなく、質の問題である。
 コペルニクス独りが地動説を守っても、それで真理は安心なものであった。日本の科学者の多数は西洋と異なって、心霊問題には何等の刺激も持たぬから、我国民に唯物万能が廃らぬ訳だ。 #0219【神道宇宙観略説(10) -物質万能から神霊万能へ-】>>

清風道人

カテゴリ:奇蹟の書
←前へ | 次へ→

最初の記事からのリスト



関連記事 一覧
#00219 2013.2.28
神道宇宙観略説(10) -物質万能から神霊万能へ-
カテゴリ:神道宇宙観略説

TOPページへ戻る