日本古学アカデミー

#0023 2010.3.31
この世界だけがすべてではない

 


 わたしたちが日常生活をおくっているこの世界を、やまとことばで「あらわよ(顕界)」といい、わたしたちの五感で感知できない異次元世界を「かくりよ(幽界)」といいます。そして宮地水位先生の『異境備忘録』に「幽界は八通りに別れたれども、またその八通りより数百の界に別れたり」とあるように、この幽界には、尊い神々の世界をはじめ、神の眷属(けんぞく)の世界や、死後の霊魂の世界、異形のものたちが住む世界、妖魔や魑魅魍魎(ちみもうりょう)の世界など、多くの異次元世界が存在していることが伝えられています。

 またこの顕界もよく観察してみると、同様の構造になっていることがわかります。まずこの地球上は、気界(人間が生活をしている地上世界)や水界(水の中の世界)、地界(土の中の世界)などに分かれています。気界にはさらに、わたしたちが住む界や動物が住む界、鳥たちが生活をする界などがあり、それぞれ異なった社会を築いています。水界も、海中界や川中界、湖中界などに分かれており、さらに深度などの違いにより数多くの世界に分類され、そこで数多くの生命体が暮らしています。地中の世界もまた、層の違いや大陸の違いによって、多くの界に分かれており、生命体が存在している界もたくさんあります。また、鰻(うなぎ)や鮭のように海中界と川中界を往来するものもあれば、セミのように変体によって地界から気界に移住するものもあり、植物のように気界と地界、水界と地界にまたがって生息する生命体も存在しています。

 人間の社会を見ても、ビジネス界や政治界、学界など、さまざまな世界に分かれています。さらにビジネス界についても、製造業界や飲食業界、マスメディア業界など多種に分かれており、製造業界もまた自動車製造業界、精密機器製造業界、食品製造業界などに細かく分類され、多くの人がそこに属してします。そして当然そこには人の往来があり、それぞれの界がお互いに影響し合っています。またインターネット界など、技術の革新によって新たな界が構築されるような変化が起こっていることもわかります。このように、宇宙間にはわたしたちが五感で認識できる顕界以外に、数多くの次元が異なる幽界が存在しているとしても不思議なことではありません。

 もしも水界に住む魚たちに思考能力があるものとして、その魚に向かって、「きみたちは水界に住んでいるから水中が習慣となって、水界の常識や自分の肉体のことを基準にして考えるため、水界の他に人間が住む気界というものがあり、そこでは八百万(やおよろず)の人々が自由自在に遊び暮らしているなどということは知らないだろう」といっても、その魚は、「この水界の他に気界などあるはずがない。第一、水がなければ息をすることすらできないので、生活するなんてことは不可能だ」と答えるでしょう。またこの魚に対して人間が作り出した製作物を示しても、その造化の方法を知らないために、怪しむだけで信じようとはしないでしょう。
 
 「夏虫が氷を疑う」ということわざがありますが、人間界の一般常識(とされていること)や、自分の肉体を基準にして幽界のことを考えると、疑念が生じるのはもっともなことです。しかし、その一般常識と呼ばれるものをくつがえしながら人類の文明が進歩してきたことも事実でしょう。

清風道人

カテゴリ:玄学の基本
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