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#00184 2012.8.3
山幸彦、神術を授かる
 
 
「その綿津見大神(わたつみのおおかみ)誨(おし)へまつりけらく、「この鉤(つりばり)を、その兄(いろせ)に給はむ時に言(の)りたまはむ状(さま)は、『この鉤は、淤煩鉤(おぼぢ)、須須鉤(すすぢ)、貧鉤(まぢち)、宇流鉤(うるち)』と云ひて、後手(しりえて)に賜へ。然(しか)してその兄(いろせ)高田(あげた)を作らば、汝命(いましみこと)は下田(くぼた)を営(つく)りたまへ。その兄下田を作らば、汝命は高田を営りたまへ。然(しか)したまへば、吾(あれ)水を掌(し)ろしめす故に、三年(みとせ)の間必ずその兄貧窮(まず)しくならむ。もしそれ然(しか)したまふ事を恨怨(うら)みて攻め戦へば、塩盈珠(しおみつたま)を出(いだ)して溺らし、もしそれ愁(うれ)へ請(こ)へば、塩乾珠(しおふるたま)を出して活(い)かし、かく惚(なや)まし苦しめたまへ」と云ひて、塩盈珠(しおみつたま)塩乾珠(しおふるたま)并(あわ)せて両筒(ふたつ)を授けて」『古事記』

 「上国(うわつくに、地上のこと)に還りたい」という火遠命(ほおりのみこと)の気持ちを知った大綿津見神(おおわたつみのかみ)は、兄神・火照命(ほでりのみこと)に釣針を渡す際に、「この鉤は、淤煩鉤(おぼぢ)、須須鉤(すすぢ)、貧鉤(まぢち)、宇流鉤(うるち)」と唱えてから後ろ手に渡すように教えました。そして常に兄とは反対の場所に田を作れば、しばらく後には兄神は必ず貧窮し、兄神がそれを恨んで攻めてくれば塩盈珠(しおみつたま)の霊徳によって溺れさせ、それを愁いて許しを請えば塩乾珠(しおふるたま)の霊徳によって活かし、そのようにして兄神を悩み苦しめるように申し伝えて二つの珠を授けました。 #0183【山幸彦の嘆息】>>

 まず「『この鉤は、淤煩鉤(おぼぢ)、須須鉤(すすぢ)、貧鉤(まぢち)、宇流鉤(うるち)』と云って、後ろ手に渡す」というのは、一種の神法道術と考えられます。
(宮地水位先生によって人間界に伝えられた神法道術にも、このように秘言と手法を用いるものが多く見られます。)
 そしてこの神術によって相手を溺れさせたり活かすことができるのは、海中(つまり海水)を掌(し)ろしめす大綿津見神の神徳によるものとうかがわれます。 #0061【祓戸四柱神の誕生】>> #0106【神々の社会】>>
(珠(たま)は魂(たま)に通じ、まさに大綿津見神の御魂の和凝(にご)もれる御神器と思われます。)

 大綿津見神が火遠命に対して、このように兄神を悩み苦しめるように教えたというのは一見不可解なことのように思われますが、このことは大国主神の段(くだり)と照らし合わせて考えれば了解できます。
 兄・火照命からお互いの幸を交換するように何度も請われた火遠命は、しぶしぶそれに応じましたが、兄の幸である釣針を海で失ってしまいました。そのため自らの十拳剣(とつかのつるぎ)を破って五百針にして償おうとしましたが受け入れられず、さらに千針を作っても受け入れられず、兄から元の針を返すように迫られたのがきっかけで海宮神界を訪れることになりました。 #0181【海幸彦と山幸彦】>> #0182【山幸彦の海宮訪問】>>
 この一件でわかるとおり、火遠命は忠誠の心と忍耐の心、さらに仁愛の心を備えており、それはまるで兄である八十神(やそがみ)に何度も苦しめられながらも兄たちに背くことのなかった若き大国主神と同じです。もちろん大綿津見神もそのことを知っており、二柱の皇太子の内、どちらが天皇命(すめらみこと)に相応しいかを認識していた上で、火照命は次期天皇命である火遠命に仕え奉る役割があるため、このように導いたものとうかがわれます。 #0102【稲羽の白兎の伝承(1)】>> #0103【稲羽の白兎の伝承(2)】>> #0104【大国主神の受難】>>

 これらのことは、須佐之男命が愛娘・須勢理姫神(すせりひめのかみ)を配偶の神として大国主神に奉り、生太刀(いくたち)と生弓矢(いくゆみや)を以て、八十神を坂の御尾(みお)に追ひ伏せ、河の瀬に追ひ撥(はら)うことを命じたことにも通じていますが、主権君位となるべき御方は、災いにもたじろぐことなく、それを福に変える天性の徳を備えていることがわかります。 #0111【須佐之男命の神勅】>> #0112【八十神の行方】>>

 そして、このことはわたしたち人間界でも同様で、不平不満をいわず、愚痴をこぼさず、ただ一筋に誠心(あかきこころ)を貫けば、幽助によって必要な時に必要なものが必要なだけ授けられるものと拝察されます。
(平田篤胤先生も、「現世の幸また冨あるも真の福に非ず、真は災ひの種なるが多かり。現世の貧また幸なきも真の災ひに非ず、真の福の種なるが多かり。そもそもこの世は吾人の善し悪しきを試み定め賜はんために、しばらく生かしめ給へる仮の世にて、幽世(かくりよ)ぞ吾人の本世(もとつよ)なるを、しかる故義(ことのこころ)をば弁(わきま)へずて、仮の幸を好み、永く真の災を取ることを知らざるは、最も悲しき態(わざ)なり。およそ道を行ひ世の過ちを救ふ人は、生涯(よのかぎり)その作事(なすこと)によりて辛苦を受くることは大国主神に似たるなりけり」と述べられています。 #0134【大国主神に神習ふ】>> )
 
 
 
清風道人
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#00112 2011.6.29
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 黄泉国(よみのくに)から地上に戻った大国主神は、須佐之男命の神勅を奉じ、生太刀(いくたち)と生弓矢(いくゆみや)を使って八十神を坂の尾ごとに追い伏せ、河の瀬ごとに追い撥(はら
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#00111 2011.6.23
須佐之男命の神勅
「汝(な)が持てるその生太刀(いくたち)と生弓矢(いくゆみや)を以て、汝(な)が庶兄弟(ままあにおと)どもをば坂の御尾(みお)に追ひ伏せ、また河の瀬に追ひ撥(はら)ひて、おれ大国主神となり、また宇都志国玉神(うつしくにたまのかみ)となりて、その我(あ)が女(むすめ)須勢理毘売(すせりびめ)を嫡妻(むかひめ)として、宇迦能山(うかのやま)の山本に
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#00106 2011.5.28
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#00104 2011.5.17
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#00102 2011.5.6
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#0061 2010.10.20
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「次にその禍(まが)を直さむとして成りませる神の名(みな)は、神直毘神(かむなおびのかみ)、次に大直毘神(おおなおびのかみ)、次に伊豆能売神(いずのめのかみ)」『古事記』

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