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#00178 2012.6.28
猿田彦神と天宇受売命の功業
 
 
「かれ、ここに天宇受売命(あめのうずめのみこと)に詔(の)りたまはく、「この御前(みさき)に立ちて仕へ奉りし猿田毘古大神(さるたびこのおおかみ)をば、専(もは)ら顕(あらわ)し申せる汝(いまし)送り奉れ。またその神の御名は汝(いまし)負(お)ひて仕へ奉れ」とのりたまひき。ここを以て猿女君(さるめのきみ)等(ら)、その猿田毘古の男神の名を負ひて、女(おみな)を猿女君と呼ぶ事これなり。」『古事記』

 猿田彦神の先導により邇邇芸命(ににぎのみこと)は無事に天降り、大宮を建立して即位の大礼である大嘗祭を斎行することとなりましたが、その功をねぎらう意味で、天宇受売命に対して「猿田彦大神を送り奉れ」と詔(みことのり)されました。 #0174【皇孫命、天降る】>> #0175【神代第五期のはじまり】>>
 ここでは「猿田彦大神」となっていますが、今までに「大神」と称されたのは、伊邪那岐大神、天照大御神、須佐之男大神、大国主大神と、いずれも大功の主権君位の神ですので、猿田彦神が高徳の神であり、また邇邇芸命が大いに喜ばれてその労をねぎらわれた神慮がうかがわれます。 #0105【主権君位の神】>>

 次の「その神の御名は汝(いまし)負(お)ひて仕へ奉れ」ですが、『日本書紀』には「時に皇孫(すめみま)、天鈿女命(あめのうずめのみこと)に勅(みことのり)すらく、「汝(いまし)、顕(あらわ)しつる神の名を以て姓氏(うぢ)とせむ」とのたまふ。因(よ)りて、猿女君(さるめのきみ)の号(みな)を賜ふ。かれ、猿女君等(ら)の男女(おとこおみな)、皆呼びて君(きみ)といふ。これその縁(ことのもとなり)」とあり、「猿田彦神の妻となって共々仕え奉れ」との詔と拝察されます。昔から日本では、女性が男性に嫁ぐと男性の姓を名乗りますが、この神伝が元になっているものと思われます。

「かれ、その猿田毘古神、阿耶訶(あざか)に坐(ま)す時、漁(すなどり)して、比良夫貝(ひらふがい)にその手を咋(く)ひ合(あわ)さえて、海塩(うしお)に沈み溺れましき。かれ、その底に沈み居ます時の名(みな)は、底どく御魂(みたま)と謂(まお)し、その海水(うしお)のつぶたつ時の名(みな)はつぶたつ御魂と謂(まお)し、そのあわさく時の名(みな)はあわさく御魂と謂(まお)す。
 ここに猿田毘古神を送りて還り到りて、すなはち悉(ことごと)に鰭(はた)の広物(ひろもの)、鰭(はた)の狭物(さもの)を追ひ聚(あつ)めて「汝(いまし)は天神(あまつかみ)の御子に仕へ奉らむや」と問ひし時、諸(もろもろ)の魚(うお)皆「仕へ奉らむ」と白(まお)す中に、海鼠(こ)白(まお)さず。ここに天宇受売命、海鼠(こ)に謂(い)ひけらく、「この口や答へせぬ口」と云ひて、紐小刀(ひもがたな)を以てその口を拆(さ)きき。かれ、今に海鼠(こ)の口拆(さ)けたり。これを以て、御世島(みよよしま)の速贄(はやにえ)献(たてまつ)れる時、猿女君(さるめのきみ)等(ら)に給ふなり。」『古事記』

 この伝はとくに奇伝で、人が想像したものとは思えない人為を離れた伝ですが、まず「阿耶訶(あざか)」とは、現在の三重県松阪市小阿坂町と大阿坂町に阿射加(あざか)神社があることからも、伊勢のある地域の地名と考えられます。「漁(すなどり)」とは魚漁のことで、「比良夫貝(ひらふがい)」とは「伎佐貝(きさがい)」で、今の赤貝のことです。「底どく」とは「底着」、「つぶたつ」とは物が沈む時に水が鳴る音のことで、「あわさく」とは泡が起こることですので、赤貝に手を食い合わされた猿田毘古神が、海水を激しく泡立てながら海中深く潜り、海の底まで沈んだということになります。

 「鰭(はた)の広物(ひろもの)、鰭(はた)の狭物(さもの)」とは、保食神の段(くだり)にも見えますが、大魚、小魚のことで、猿田彦神を送り、共に阿耶訶(あざか)の地に至った天宇受売命が、魚類を集めて「汝らを皇孫命のお供えとして仕え奉ろうと思うがどうか?」と尋ねた時に、諸々の魚類がそれを承諾したのですが、海鼠(なまこ)だけ答えなかっため、口が利けるようにしたという伝です。 #0073【鳥獣魚類及び穀物の原種の発生】>>

 何とも推し量り難い妙伝ですが、いつものように前後を照らし合わせながら考究することによって真理をうかがい知ることができます。
 猿田彦神ともあろう大神が赤貝に手を挟まれて海の底まで引き込まれたとありますが、この猿田彦神の御母は伎佐貝比売(きさがいひめ)と称することからも、御母の分霊である赤貝(伎佐貝)の導きにより、ある目的を以て海底に引き込まれたものとうかがわれ、つまり、これは猿田彦神の御母である伎佐貝比売の神量(かむはかり)と考えられます。(この時代は既に幽顕分界後ですが、その後も日本は完全な人界ではなく未だ幽顕相通の時代で、この伝の後半で魚類が言語を発することからもそのことがわかります。 #0108【動植物も言語を発する神代の時代】>> #0135【地球上の幽顕の組織定まる】>> #0177【「天孫降臨」の年代】>> )

 さて、猿田彦神が何のために海水を泡立てながら海の底まで至ったのかといえば、「底どく御魂」の「御魂」という言葉からも、その大いなる魂徳によって魚類を追い集めるためとうかがわれます。そして猿田彦神を送って共に阿耶訶(あざか)の地に至った天宇受売命は、皇孫命に魚類を御贄(みにえ)として奉るため、猿田彦神によって追い集められた魚たちにその旨を伝え、了承を得ることができたのでした。(天津神の御子である皇孫命の御贄となる了承を得るという神業は、国津神である猿田彦神ではなく、天津神である天宇受売命が適任であると思われます。)

 また、もう一つの目的として、海中は海津見神(わたつみのかみ)が治(し)ろしめす界ですので、皇孫命に奉り、さらにその後の青人草(人類)の食料とするために魚漁を行うに当たって、自然の摂理に反することのないように、事前に海津見神にその目的を伝えて了承を得る必要があったものとうかがわれます。 #0061【祓戸四柱神の誕生】>>
 なお一言付け加えるならば、この時魚類が集まって来たのは、猿田彦神の魂徳もさることながら、海津見神の幽助にもよるものと思われます。(今の人間界でもこれに習い、漁業を行うに当たって海神の神祭が斎行されます。)
 
 つまり、猿田彦神と天宇受売命は、猿田彦神の御母の神量(かむはかり)と、両神の見事な連携プレー、さらに後に皇統に深く関わることになる海津見神の幽助により、「猿田彦神の妻となって共々仕え奉れ」との皇孫命の詔を実行されたものと拝察されます。
 
 
 
清風道人
カテゴリ:日本の神伝
 

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